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「君。オムカレーって、どっちが主役だと思う?」
食堂で一人、ぶっかけうどんを啜っていた時のことだ。
愛羽 琳音が僕の前に颯爽と現れ、その特徴的な澄んだ声音で話しかけてきている。
現在進行形、ここ重要。
目を点にしている僕に気づかず、当の本人は「なんなら “ カレーオム ” でも良いと思わない?」と長々持論を語り出した。
「……はい?」
「黄金に輝くオムライスの周りに、溶岩のように流れてる深い薫りのカレー。主役は一体どっちかなって、私ずっと考えてるんだよね」
いや聞きたいのはそっちじゃなくて。
僕の思いをあざやかに無視した彼女は、自然な動きで僕の正面の席にかけた。
あ、座るんだ。話、続けるんだ。
「で、どっち?」
「え?」
「オムライスか、カレーか」
あくまで真剣な彼女の表情と、話している内容がてんで噛み合っていない。
日常をいとも簡単に壊し始めている目の前の存在に、なかなか頭が追いついてこないが。
彼女は僕が真剣に考えていると勘違いしたのか、黙り込んでいる僕を期待に満ちた表情で見つめてきている。
このままだとよくわからない沈黙の時間が永遠にさえ続きそうなので、僕は諦めて口を開いた。
「……オムライス、かな」
「それはまた、なぜ?」
「表面積がでかいから」
僕が適当に答えると、彼女は「なるほどね」と大げさなほどに頷いた。
どうやら満足したらしい。
「それじゃあ雑誌は、記事と付録、どっちがメイン?」
「…………」
どうやらまだ満足していなかったらしい。
この奇妙な会話、というか交流自体、彼女の意図がまったく読めない。
僕にぶっかけうどんを味わわせてくれる気は当分ないらしい、ということだけはビンビン感じるが。
「……付録」
「その心は?」
「雑誌の値段って、ほぼ付録代みたいなところあるし」
「ふぅん。じゃあさ」
まだあるのか。
いや何となく予想はしていたけど。
こちらの心情をいっそ清々しいくらいに汲み取ってこない。
この人は一体、何がしたいんだ。
「クリスマスは二十四日と二十五日、どっちが本番?」
「二十四日。世の中の子供が一番浮つく日だから」
いちいち聞く暇が省けるよう、回答を一つにまとめてしまった。僕が慮ってどうする、おい。
ところで彼女は、もはや忘れてはいないだろうか。
僕たち、今日が初対面だよね?
するとようやく僕の焦れや葛藤なんかを読み取ってくれたのか、彼女が今までとは一味違うトーンで放った。
「じゃあ君は、人生において、保守と挑戦はどっちがメインだと思う?」
そうきたか。
こちらをじっと覗く彼女の瞳を見れば、これが本当に僕にしたかった質問だということや、これで最後だということは容易に理解できた。
何だかよくわからないが、僕は彼女に、試されているらしい。
そんなことを自覚して、したからか、僕は柄にもなく本気に、また真摯に考えて。
「保守、かな」
「それはまた、なんで――」
「人生は、後悔することの方が多いはずだから」
僕が言葉を遮ると、彼女は意外だと言うふうな表情で、瞬きをして。
なるほどね。よしわかった。
一人、勝手に納得したように相槌を打って。
それから思いきり、口角を上げた。
「浅野くん、君の曲を私に売ってよ」
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