回帰月食

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「くそっ! ここに来て邪魔はさせん!」  ペングェンに飛びかかろうとするクルーをキーウィが「よせ」と制した。 「どっちにしろ賽は投げられたんだ。ペングェン、お前が何を考えているか知らんが俺たちは予定通りに事を運ぶだけだ。黙って見ていろ」 「大量虐殺(ジェノサイド)を見逃せ、と?」 「『新世界の到来』だ」  キーウィが少し首を前に傾げた。 「人類は増えすぎた。愚かすぎた。地球を破壊しすぎた。地球を救うため、絶対数を大幅に減らす必要がある。人類にはが必要なのさ」 「……大津波を何回か引き起こしてから、月の軌道を元に戻そうと? そんな頃に地球へ戻ったところで――」 「俺たちの仲間は全員、高地のキャンプにいる。高度文明は失うが、最低限文化的な生活はできるだろう」  『覚悟の上だ』と言わんばかりに、きっぱりとキーウィが言い切った。 「何か嫌なことでもあったわけ? 伯爵令嬢にフラれたとか」  ペングェンは入り口から奥に入ろうとしない。 「耐えられないのさ。月にいて地球を見下ろしているとな。同志たちは皆、同じ意識を共有している」  少し落ち着いたのか、キーウィが無骨な拳を膝の上で組んだ。 「人類の宇宙進出……自分たちが地球をボロボロにしたクセに、別の星へ逃げ出そうだなんて虫がよすぎるとは思わないか? 傲慢にもほどがあると。地球にはまだ多くの寿命が残されている。さえいなければね」 「『英雄になる』ってそういう意味なの?」  『時間』に余裕はない。早くしなければならないが。 「ああ、そうだ。知っての通り、ヴェートーベンはナポレオンに心酔していた。交響曲『ボナパルト』を作曲するほどに。だが」 「……皇帝に即位したナポレオンに絶望し、彼はタイトルを書き換えたわ。『ある英雄の思い出のために』と副題を添えて」  ヴェートーベンは新皇帝が暴君と化すだろうと予言していた。 「キーウィ、あなたは暴君の誹りを受けても『地球の皇帝』になろうというの?」  キーウィの仲間は本当にここにいる3人だけなのか、それが重要なのだ。ペングェンが焦れてくる。  地球を破滅に追い込みたいのだろうキーウィ側に『焦る』必要はないが、自分にはタイムリミットが迫っている。それまでにミッションをこなす必要があるのだ。 「14だ、残念ながら数では勝負にならないぞ。邪魔をするなら拘束させてもらう」  キーウィの『同志』とやらが、じわりと近寄ってくる。 「ドードー司令官がね。あの人は心配性だから」  キーウィが視線を外したのを合図に、その横側からシルバーの外殻を持つ2体のロボットが姿を現した。 《抵抗するな! 我々には応射権限(ガーディアン)が付与されている》  手には、黒い銃器が。 「遠隔操作体(リモーター)か!」  クルーたちが怯んだ。 「を持っていけと譲らなかったのよ。ごめんね」
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