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「さて」
ペングェンが左手首の時計を確認する。
「時間がないの。あなたたちはここをお願い。私は対消滅ユニットを仕掛けてくるから」
まるで買い物に出かけるかのように、ペングェンがその場を後にする。
《……よろしくお願いします》
リモーターの2体はペングェンの方に視線を移すことをしなかった。
「なるほど」
敵意を向けるリモーターに、キーウィが軽く溜息をつく。
「リモーターだけ寄越すと『3原則』のせいで俺たちの行動を阻止できない。しかし『ペングェンを護る』という大義名分でなら応射が可能……と」
『例外規定』というやつだ。
「だが、甘いな」
ゆっくりとキーウィが席から立ち上がる。
《動くな!》
リモーターが威嚇するも、キーウィは蝸牛のようにゆっくりとリモーターに接近していく。
「お前たちは俺が『暴れなければ』発砲権限を発動できない。だろ?」
ピタリと身体を密着させるも、リモーターは銃を使えない。
「寝てろ」
キーウィがリモーターの後頭部にある非常停止スイッチを押した。
《おのれ!》
もう一体のリモーターが銃口を向けるも、別のクルーに背後から忍び寄られて同じく停止させられてしまった。
「追うぞ!」
キーウィの発声とともに、4名の男たちがペングェンの後を追い始める。
「対消滅てっのは気分屋なんだ。突然反応が止まることもある。所詮は量子力学的確率論だからな」
地球の重力圏脱出に補助ブースターが必要な理由はそれだ。
「まして『暴走』なんざそんな簡単じゃあねぇ。叩き上げエンジニアの俺は誤魔化せん。少しくらいのタイムラグなら関係ない!」
「だが、キーウィ」
追走するクルーが心配そうな顔になる。
「ペングェンが何処へ向かったのか分かるのか?」
「おう、『クロエ・エバーガブリエル#16』だ。あいつがいつも使っている香水でな。……俺の鼻が覚えているんだよ。あいつが何処を通ったのか、10分以内なら確実に追える!」
簡易宇宙服のヘルメットを小脇に抱え、猟犬のように鼻を鳴らしながらキーウィが潰れた基地の奥深くへと飛ばしていく。
「なるほど。基地の残骸と被った土砂を吹き飛ばすことで推進力を増そうということか」
どんどんと奥に進んだ先、そこは行き止まりだった。
「変だな? 残り香はあるがペングェンの姿が無い」
キーウィが辺りを見渡したときだった。
《お元気? キーウィ》
ペングェンからの通信にキーウィが慌ててヘルメットを被りなおす。
「ペングェン? 何処にいる!」
次の瞬間、キーウィは足元に転がる小さなガラス瓶に気がついた。そう、『クロエ・エバーガブリエル#16』の見慣れた小瓶。
「しまっ……!」
《今、対消滅ユニットが『仕事』を始めたわ。縁があったらまた逢いましょう》
次の瞬間、キーウィの視界が真っ白な光に覆われた。
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