嫌な予感

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嫌な予感

今日は朝から飛行機が沢山飛んでいる。明日行われるSDIのフェスティバルの関係者が沢山やって来るらしい。 夜勤明けの詠臣が、不審な人物も入って来やすいので、家から出ないで下さい。と言って、寧々をベッドに連れ込んだ。 (朝から何を! と、ビックリしたけど、キスされて、愛してますと囁かれ、抱き枕にされただけだった……うーん、これはコレで、幸せです)  逞しい腕に抱き寄せられ、大好きな人にくっ付いているだけで、多幸感が溢れる。  昨日は何か問題があったのか、何時もよりも帰宅する時間が遅く、少し疲れている様子に寧々の心配も尽きないが、フェスティバルもあるし色々と忙しいのかなと勝手に推察した。 (フェスティバルには、芸能人とかテレビの人も来るって言ってた……詠臣さんの事は信用しているけれど、ちょっと心配……だって、詠臣さんは素敵すぎるから)  寝入ったと思われる詠臣の腕の中を動き、見つめ合う位置まで来た。 (無理……好き。顔がニヤけちゃう。抱きつきたくなるけど、我慢。詠臣さんを起こしちゃう……あー、でも見るだけキスしたくなっちゃう)  夫婦関係の修復が叶ってからは、詠臣の甘い言葉や行為が以前よりも増していた。  料理中も、本を読んでいる時も、気がつくと蕩けるような笑顔で見つめられていて、ときめくやら、恥ずかしいやら、美怜の失礼な真摯なストーカーという言葉をおもいだして笑いそうになるやら忙しい。 (毎日が幸せ過ぎて怖い……琳士や匠さんとも再会できたし、言うことなさ過ぎて……何かありそうで怖い。子供の時も体は悪かったけど、毎日が楽しかったとき、お父さんとお母さんが死んでしまったし、匠さんと琳士は居なくなっちゃった。詠臣さんと結婚して幸せだなぁと思ってたら、お爺様も病気で亡くなってしまったし……落ち着いたらおじさんが来たし……次は何だろうって心が構えちゃう……)  心配で勝手に走り出した心臓をなだめる。 (大丈夫……悪い事なんて起きない。とにかく今日は大人しくしていよう)  静かにする為に詠臣が帰ってくる前に早起きして家事は大体終わらせた。心置きなく時間を無駄にしようと決意し、寧々は詠臣にすり寄った。  眠っているのに、ギュッと抱きしめ直す詠臣に寧々が微笑み、目を閉じた。 「……寧々」  詠臣が、すっかり寝入った寧々の髪を撫でている。出会った頃は肩の上くらいで切りそろえていた髪は、子供っぽく見えるという理由で、今は少しずつ伸ばされている。  詠臣が、サラサラと流れる髪の感触を楽しんでいると、メールの着信があった。  昨夜、前衛島で閃光があったと報告があり、出動すると密猟者が、ノトサウルスとスピノサウルスの卵を奪おうと上陸し、襲われ戦闘していた。乗ってきた船は大破して炎上し航行不能になっているようだった。  縄張りを荒らされ、住処や卵を攻撃された海竜の活動が活発になっている。  今日の午後からは特別な警戒態勢を取る為に、詠臣も再び招集されている。  メールでは招集の時間が早まった事を知らされた。気持ちよさそうに眠っている寧々を起こすのが忍びない。 「……」  詠臣の指が、寧々の肉付きの薄い頬を摘まんだ。寧々が嫌がって顔を逸らすのが、申し訳無いが可愛くて、今度は反対側に手が伸びた。 「詠臣さん」  寧々が、少しだけ目を開いて、甘えた声で名前を呼んで微笑み、詠臣は心臓を撃ち抜かれた。  詠臣は照れて苦笑し、手で顔を覆って寧々への愛しさをやりすごしている。 残念ながら、愛を確かめ合うような時間が無い。 「あれ? もう、起きちゃうんですか?」  目を覚ました寧々が、今何時だろうと周囲を見回している。 「今日は、また呼び出されているんです」  起き上がった寧々の後ろに流れてしまっているネックレスを詠臣が戻した。 「そうなんですか、大変ですね」 「バタバタしてすいません」 「詠臣さん……大丈夫ですか?」  普段は無いような勤務形態に、何か大きな問題が起きているのでは無いかと、寧々は心配になって、遠慮がちに詠臣の腕を掴んだ。 「大丈夫ですよ。私より、寧々が気をつけて下さい。今日は、この島に部外者が沢山訪れています」 「はい。詠臣さんも気をつけて下さいね」  詠臣は、寧々の不安そうに揺れる瞳に顔を近づけて、伏せられた瞼にキスをし、寧々の細い顎をすくい上げると、口付けた。  詠臣が家を出て、数時間経った頃、飛び交っていた飛行機は見当たらなくなった。  代わりに、攻撃能力もあるヘリや戦闘機が海へ向かって飛んで行き、戻ってこない。 (何が起きているんだろう……琳士も匠さんも、今日も不在っぽいし……皆大丈夫かな…)  寧々は、何をしていても気が入らず、落ち着かなかった。  そして、夕暮れが近づいて来た頃、警報が鳴った。この島に来てから初めての全島民の避難を促す警報だ。建物の廊下からも、外のスピーカーからも多言語で放送が入っている。 (……この島に海竜が向かってる?)  寧々は緊張で呼吸が浅くなった。 (詠臣さんも、匠さんも琳士も……大丈夫かな……)  心配が尽きないが、今の自分に出来るのは指示に従って避難をする事だけだと気持ちを切り替えて、避難場所とルートを確認する。火の元を確認して、必要な物だけを持って家を出た。  軍服姿の避難誘導係に従って、徒歩で地下へと潜る道へと向かっていると、遠い雷鳴のような爆発音が聞こえた。思わず空を見渡すけれど、立っている場所が悪く何も見えなかった。
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