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お花畑に到着
目的地に着いて、車を停めると詠臣が大きなリュックに寧々の荷物を詰めて背負った。
その背中を見ながら「重くてすいません」とつい謝ってしまったら、「全く問題ありません」と返された。
植物公園は、そこそこの賑わいだったが、園自体がいくつかのエリアに分かれており広大な為に密集感はなかった。
「すごいですね!」
寧々が一面に広がるコスモス畑に感動していると、その寧々を見て詠臣が微笑んでいた。
「綺麗」
「そうですね。こんなに一面に咲いているのは荘厳です」
寧々がフラフラと歩き回り花を見ている後ろから詠臣がついて歩き、時折現れる蜂を興味深そうに見ていた。
「平さん、蜂が好きなんですか?」
「いえ、このホバリング技術は中々なものだと思って。ヘリも乗るのですが対海竜用の重機関銃を使用しながら……あ、申し訳ありません」
真剣に語り出した詠臣が興味深くて寧々は、続けてくださいと手で促した。
二人は、ときより花畑に相応しくない話題も交えながら楽しく散策をした。
「っ!」
そして、ふと詠臣が遠くを見て目を見開いた。
「どうかしましたか?」
寧々が彼を見上げて首を傾げた。
二人の距離はいつの間にか、少しづつ近づいている。
「知り合いを見かけました」
「それは、凄い偶然ですね。お話しされますか?」
「いいえ、邪魔したくありません」
「空軍の方ですか?」
「はい、同期と後輩です。二人が交際していたとは知りませんでした」
「同じ部隊で交際! なんだか、ちょっと映画みたいで素敵ですね」
「そうでしょうか?」
「はい、命を預け合う厚い信頼と、愛ですよね」
輝いた目で見上げる寧々が面白くて詠臣が微笑んだ。
「私は、好きな人には安全な所にいて欲しいです」
詠臣が寧々を見つめて言った。
「私も、そう思います」
暗に軍人との交際を否定する言葉だった。
「……ソレを言われてしまうと、厳しいですが、引きたくありません」
「この綺麗な景色も、ここに居る私も皆さんも、全部平さんたちが守ってくっださっている事は、とても感謝しているのですが」
「待って下さい。とりあえず、他の場所も見てみましょう」
決定的な否定の言葉を聞かないために、詠臣が寧々の手をとって歩き出した。
思っていたよりも、ずっと大きな手に心臓が高鳴る。大きくて、温かくて、硬い。
その後も一度繋がれた手は、離されなかった。
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