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キスの必勝法
周囲の騒ぎは二人の耳には届かず、寧々と詠臣は順調に交際を進めていった。
デートや食事を重ね、正式にお付き合いをすることになって一ヶ月。今日はクリスマスイブだ。
今夜も、一分の隙も無く整った詠臣が、助手席のドアを開き、そして、寧々の手を取り……車から降ろした。
「おやすみなさい」
「……おやすみなさい」
デートは、寧々が風邪をひかないようにと、外のイルミネーションを席から眺められるレストランで、ちょっと高級な食事をして、プレゼントを交換し、日付が変わる前には、お酒を飲まない詠臣の車で、こうして送られてきた。
更には、寧々が家の中に入るまで、優しい笑顔で見送り、そして寧々が家に入って、少ししてから車が走り去る音が聞こえてきた。
(これって……これって……どういう事でしょうか……紳士すぎるのではないでしょうか!)
寧々は、その場でしゃがみ込むと、デートの為に編み込んだ、ゆるふわの髪の毛を指先で、ワシャワシャと揉んだ。
「美怜ちゃーん!」
「アタシは寧々のお助けロボットか!」
クリスマスも終わった二十六日、寧々は美怜の家を訪れていた。
すっかり定番となった、恋愛相談が始まる。
「で、今日は何なのよ。詠臣さんが素敵すぎて顔がみれないとか、糞みたいな惚気はいらないから、クリスマスのケーキで胸焼けも良い所だから」
「あのね、私たちお付き合いして一ヶ月経つでしょ」
「そうね、私からすると、付き合うまでも長かったけどね」
美怜はクリスマス感を出したネイルを剥がしながら寧々の話を聞いた。
「一昨日は、イブだし……そろそろ……」
言いに出しにくそうな寧々が顔を掌で塞いだ。
「セックスしたの?」
ふるふると首をふると、後ろで纏めた寧々の髪が揺れる。
「キス……してくれるかと思ったけど……なかったの……」
「中学生か!」
美怜がネイルリムーバーのボトルをテーブルに叩きつけた。
「よし、わかった。代わりに、この美怜様にキスして欲しいと?」
ふざけた美怜が自らの唇をベロベロとなめた。
「ちがっ……そうじゃなくて!」
近づく美怜に寧々が慌てて腕を突き出す。
「分かっとるわ。寧々、アンタは間違っている!」
美怜が寧々を指さした。まるで、殺人事件に関わる探偵のように。
「え?」
「キスしてくれなかったとは何事か!お前がしろ!」
美怜の言葉に、寧々の体に稲妻が走った。
「相手の髪をガッって掴んで引き寄せて奪うもよし、壁に追い詰めてから胸ぐら掴んで引き寄せてしてもいい。階段や段差で相手より高い位置からの不意打ちなんてのもある」
寧々は、美怜の作戦を脳内で再現しようと、妄想をはじめるも……詠臣の清廉潔白な紳士オーラと麗しい顔面を前にすると進めない。
「あ……む、無理です……出来ません」
「けしからん! だが、寧々にはハードルが高いのも承知済み。よし、じゃあ耳貸して」
美怜が人差し指をクイクイと動かして寧々を近寄らせた。
寧々がテーブルに身を乗り出して、美怜の顔に耳を寄せる。
すると、美怜が顔を近づけて
チュっと頬にキスをした。
「みっ美怜ちゃん⁉」
顔を真っ赤にした寧々がキスされた頬を抑えた。
「今のをやりなさい。これで勝てる」
「あっ…あ、あ……う、うん……頑張る」
寧々は拳を握りしめた。
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