一歩前へ

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(どうしよう……もうギブアップしそう、詠臣さん、いつもと違う! 当たり前なんだけど、男性の顔をしている!)  寧々は胸の中が、モゾモゾとして落ち着かない気がした。 (好きな人と抱き合いたいと思ってたけど、いざ……ってなると、どうしたらいいか分からないよ! 私、上手く出来るのかな⁉ 変なやつだと思われたりしないかな……大丈夫かな?)  初めての事に、寧々は不安と心配に襲われた。もちろん、期待や興奮もあるけれど、好きだからこそ、嫌われたりしないかネガティブになった。 「寧々……」  詠臣は寧々を抱き上げて歩き出すと、ベッドに優しく座らせた。 (ここから……私はどうしたらいいんだろう……男女が何をするのか位は知っているけど……実際、どうしたら良いかわからないよ! どうしよう、美怜ちゃん! もっと勉強しておけば良かったよ!) 寧々の混乱をよそに、詠臣はネクタイの結び目に指を差し入れて、もどかしそうに引き抜いた。 (かっ……かっこいい……)  寧々が詠臣に見惚れているうちに、詠臣は軍服のジャケットを脱いで床に捨てた。  普段ならば、しっかりとハンガーに掛ける詠臣の粗野な振る舞いに、寧々は、さらにドキッとした。  そして、詠臣はワイシャツの腕のボタンを外した。 「寧々……あまり熱心に見つめられると、優しくできなくなります」  寧々の視線に気がついた詠臣が、苦笑してワイシャツを脱ぎ捨てた。  そして、上半身裸の状態で寧々に近づいて、膝でベッドに乗り上げた。迫り来る、美しい雄の肉体が、寧々を圧倒する。 「そんな不安そうな顔をしないでください……虐めたくなります」  詠臣の手が寧々の頬に添えられ、唇を食べるようにキスをされた。  いつもより激しく、執拗なキスに呼吸がままならない。ギュッと目を閉じて縋るように詠臣の胸に手を置いて、相手が素肌なことに鼓動が高鳴った。    寧々が、泣きそうな顔で詠臣を見上げると、詠臣が寧々の頭を支えてベッドに押し倒した。 「寧々……好きです、とても……」 「詠臣さん……」 (すごく、大切に扱われているのが、わかる……心が満たされる……嬉しい……好きが溢れてくる)  寧々は柔らかい表情で微笑むと、詠臣の頬に手を伸ばし、人差し指で唇に触れた。  すると、その指にチュッとキスをされたので「そっちじゃなくて……」と寧々が不満を漏らすと、意地悪そうに微笑んだ詠臣が寧々に顔を寄せ、軽いキスををした。 「ゆっくりしましょう……寧々の心臓が驚かないように……」 「……」  言葉通り、詠臣は寧々の体をゆっくり開いていった。  あまりに、丁寧すぎて……寧々が焦れるまで。  詠臣に握りしめられた、寧々の手の力が抜けた。  詠臣の体が、寧々の上に寄り添うと、最後まで食べ尽くされるようにキスをされた。  しばらく、寄り添って横になった後、詠臣が額に手を当てて、深いため息をついた。  寧々は、自分が何かしてしまったのかと、ギョッとして隣に寝ている詠臣の方を見た。 「……空将にご連絡するのを……忘れてました」 「っ!」 (そうだった……お爺様に、詠臣さんと食事してから帰りますってメールしたんだった……今、えっ……十二時……まさか私、今から帰されちゃう?)  寧々は明日筋肉痛になっていそうな重い体を起こして、詠臣の胸の上に顔を乗せた。 「……帰らないと駄目ですか?」  寧々の行動に詠臣が目を瞑って笑った。 「帰さない理由を考えてました……可愛いことをしないでください……これ以上、碌でもない男になりたくないです」  詠臣の手が寧々の乱れた髪を撫でた。  気持ち良くて幸せで、つい笑ってしまう。 「寧々……」  体を少し起こした詠臣が肘をついて横になると、寧々の唇にキスをした。  唇が離れると、二人で見つめ合って微笑んだ。
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