40.運命・開花

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40.運命・開花

[64]  下校時の生徒が漂う昇降口。 「今日、クソ寒いな」「中でバス待とうぜ」  などと交し合う言葉。  靴の出し入れ。ガサツな蓋の開け閉め。  校庭からする笛の音。  ざわめき。    悠一は、トントンとつま先を軽く床に打ちつけながらスニーカーを履き、靴箱に上履きをしまう。すると、 「悠一!」と、廊下から声がした。  コートとカバンを抱えた奏が、大きく手を振りながら駆け寄ってくる。  悠一に対しては、小鳥がさえずるように饒舌な時も多い奏だったが、高校生男子にしては、どちらかと言えば物静かな方だ。  学校でのこんな「ふるまい」は、割とめずらしかった。 「あのさ、あのさ、悠一、聞いて」  まさに「息せき切って」といった風に、いきおいこんで、奏は話し出す。   なんだ、どうしたんだよ? コイツ――  若干、あっけにとられるような思いで、悠一は目の前の奏を見下ろした。  ずいぶんと興奮してるんだな?   耳たぶから頬から真っ赤にしてさ。 「あの絵……悠一を描いた絵、美術部の顧問から、今、教えてもらったんだけど、あれ、コンクールに出してもらえることになったって。市内のさ、有名な画家の先生の推薦も貰えるって。メッチャ誉めてもらえたんだって」 「へぇ……」    「推薦云々」が、そんなに得難いことなのかどうか。  正直、ピンとこない悠一だったが、とにかく奏の「喜びよう」が尋常でないコトだけは分かった。だから、 「よかったな、スゲェな」と、素直に一緒に喜ぶ。 「でさ、それって東京のコンクールだから、これから絵も送らなきゃで……それでさ、コンクールで、結果とか? それがまあまあ良かったら展示もされるんだって。それも、上野とかの美術館だよ! 顧問の先生はさ、あの絵なら、それぐらいの結果は出るんじゃないか……って言ってくれてて。もしさ、もし、あの絵、東京で展示とかされたらさ、悠一、おれと一緒に観に行ってくれる? そりゃ、もちろん評価がよかったらだけど」
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