0.春日悠一の視界

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0.春日悠一の視界

[0]  「Ω(オメガ)」なんだろうな――と。  平凡なβ(ベータ)に過ぎない俺にすら、そんなコト、すぐに判った。    まくった袖からのぞく手首、尺骨の突起。  柳炭を持つ指先は端正で。  薄紅に艶めくその爪に、なぜかいつも、視線が釘づけになった。    「透明感」って言えばいいのか?  女性みたいに滑らかなきめの整った頬、けれど。  女性のモノとは明確に違う骨格――  窓から差し込む日差し。  長い睫毛が影をかたちづくり、光に透ける淡い色の髪。  漂うようなデッサン。  紡がれるのは、ひどく緻密な線描。  誰が見ても「異質」だった。  異質な「美しさ」。  たかが十代のガキにも解ってしまう。  感じ取れてしまう、「それ」。  だから、ソイツは「独り」だった。  いや。  別にハブられてるとかイジメとか、そういう意味じゃない。  友人らしき人間と連れ立っていたり、誰かと語らう姿はよく見かける。  いまどきの世代、「オメガ差別」なんてものが「醜悪」だという認識なんて「常識」だ。  そうじゃなくて。  誰と話していても誰と歩いていても。同級生に囲まれていても。  ソイツは、どこか別の場所にいるようだった。  ヤツの周囲だけ空気の色が違うように見えた。そこだけがポッカリと。  だから――  俺は視野の境界上で。  皮膚の表面で。  ザワリと、ソイツのことが気になり続けていたんだ。  小鳥遊(たかなし)(かなで)のことが、ずっと。
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