4.藤堂尊は意識する。

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 ――ちょっと「ピンとこない会場だな」と、すぐにそう思った。    ワザワザ、出先から「あの人」が、通夜に足を向ける。  よほどの「行きがかり」がある人物なのか。それとも、何か別の「用向き」があるのか。  そんな「勘ぐり」をしながら到着した場所だったから、特にそう感じてしまっただけかもしれないが。  仏式の通夜でもなさそうなのに、会場は、いわゆる「普通の斎場」で。  会葬者は、どうやら棺に献花をするだけらしかった。    献花用のユリを渡される場所に目をやれば、黒スーツのスタッフは、見覚えのある男だった。  それが誰なのか、すぐに分かった。  ――「忘れられない」のだ。    物心ついてからというもの、「あらゆるコト」が記憶に焼きつき、どんな些細なコトも「忘れられない」。  「それ」は、アルファとしての能力のひとつで。  十数年、記憶はヒタヒタと積み重なり続けてきた。 「キリがないぞ」  今日も、「あの人」にそう言われた。 「お前もそろそろ、『無駄』に能力を使わず、余力を残すということを覚えてもいい頃だ」と。    この先、何十年と、このままではいられないコトくらい、自分でも想像がついていた。  優先順位をつけて「流していく」やり方を見つけないと、どうしようもなくなる日が来るだろうと。  だが、「そのコツ」は、まだなかなか掴めない――  そうさ。  だからすぐに分かった。その男が、三組の「春日悠一」だと。  たしか……陸上部にいたハズで、けれども、少し前に辞めた様子だった。  なるほど? それってのは、こうやって「家業に専念する」からってコトだったのかよ?  だとしたら、まあ、ご苦労なこった――  尊は、微かに口もとを歪める。そして、 「『お互いに』な」と、胸の内で呟いた。  尊――  隣に座わる父親の声で、藤堂尊は物思いから引き戻される。 「良い機会だ、あそことは……春日のところの息子とは、ソコソコ上手くやっておけ」  そう唐突に命じられ、尊は少し面食らう。  隆道が続けた。 「あの息子とは、『それなりに親しくしておくのが得策だ』と言っている」  そして、「分かったな」と、一方的に話を終えた。  だが、息子が今一つ、自分の真意を飲み込めていないことを感じ取り、   「人は、必ず死ぬ。そしてその時には、どんな秘密も露わにされる。だから……ああいう『家業』の者を、軽くは扱えない」と、言葉を重ねた。  とりあえず「ハイ」と、尊が応じようとした時。  それに僅かに先んじて、隆道が再度、口を開く。 「特に、あそこの……春日の家とは、多少のつながりを持っておけ」と――
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