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「離れ」の扉を開け、尊は逃れるような気持ちで庭へと出る。
この後、あの室内で何が起こるのか――
知らない。知りたくもない。
けれど、想像はつく。
「あの人」は、たぶん。
あそこまでグズグズに発情させたオメガを、限界まで放置して「いたぶる」のだろう。
どうせ、抑制剤の投与すら意のままにコントロールしているに違いない。
そして、そんなオメガを何人も「所有」しているはず。
彼、彼女らの性欲を掌中にし、その身体を焦らし尽くして。おそらく――
ほんのごくわずかだけ、「性」を「与える」のだ。
絶妙の加減で。
完全に狂いきらない程度に。
死なない程度に。
「母」にしてきたのと、同じように――
上着のない尊の肩に、庭の夜の冷気が染み入った。
何もかもから逃れるために駆け出したい気持ちを堪えながら、表情を消しつくして母屋へと歩く。足早に。
銀木犀の香りがした。
欲望を刺激するひたすらに甘ったるいオメガの匂いに似た「それ」は。
けれども、一片の清々しさをまとって、尊の鼻腔を、肺の中を浄化する。
*
階段を上がって自室に入り、ドアを閉めて鍵を掛け、尊はブルリとひとつ、身体を震わせた。
父を「完全には」満足させられなかった。
「感情」を「狼狽」を完璧には押し殺せなかった。
そしてなにより――
今、スラックスの内側で。
尊の「雄」は、布地の合わせ目に食い込み、はち切れそうなほどに勃起していた。
ベルトを抜き取り、ホックを外す。
ペニスは、そんなわずかな刺激すらも拾い上げてしまう。
「んっ……っ」と、押し殺しそびれたうめき声が、イヤらしい音で鼻から抜けた。
そのままファスナーを寛げれば、みっともないほどの大きさの雄塊が、下着を押しのけるように溢れ出してそそり立つ。
尊は着衣のまま、その熱を握り込んだ。
込み上げてくる吠え声は、強く袖口を噛んで押し殺す。
「匂い」が――
さっきのオメガの体臭が、移り香のように尊のシャツに沁みついていた。
男茎を摺り上げる指筒の動きが、乱暴さと速度を増していく。
だが、そう簡単に「終わらない」はずだ。
アルファの欲求は激しく強い。何度射精しても勃起は続く。
これまでに目にした、あらゆるオメガたちの痴態が、尊の脳内をグルグルと回った。
けれども、快楽はひたすらに引き延ばされ、一度目の絶頂すら、なかなか尊を訪わない。
――たしかに、「あの人」は正しい。
「このこと」については、たしかに。
「これ」を「自制」できなければ。
感情以上に強い、この「欲求」を制御できなければ。
ただの獣慾だ。「あの人」に、わざわざ「したり顔」で言われるまでもない。
こんなものに振り回されるわけにはいかないのだ。
なにもかも台無しになる。
やらなければならないことが。組み上げた予定も計画も。
一体、どれほどの時間がムダになる?
発情に狂うだけのアルファなど。
そんなものは、「支配者」どころか単なる「種馬」にすぎない。なのに――
一度では終われないことは分かりきっているのに。
一度目すらも、まだ――
尊は腰を揺すり上げながら、交尾に及んだことのある幾人かのオメガの記憶をつまびらかに思い返す。
奥に割り入る感覚を、まとわりつく熱を。
情欲を煽りつくす甘ったるい肌の匂いを――
そして「その行為」が、いつも余さず父親の監視のもとに置かれていたことを。
刻々と過ぎゆく時間に焦りを覚えながらも、尊は欲望に溺れていく。
一筋の乱れもなく整えられたベッドスプレッドの上に身体を投げ出し、顔を枕に強く押し当てた。
いかにも藤堂家の者らしい、尊の厚みのある均整の取れたくちびるから、唾液と嬌声が漏れ出す。
そして固く筋張って膨張しきった局部を、乳首の勃起を、マットレスに擦り付けた。
来る――
せり上がってくる熱液の圧力を脚の付け根に感じ取った刹那、ドプリと白濁が溢れ出した。
アルファの大量の生殖液は、掌や懐紙程度では受け止めきれない。だから。
それを分かっているからこそ、尊はムダなあがきもせず、それをベッドカバーの上に迸らせるがままにする。
放出が続く。
そんな長い射精が終わっても、尊の雄は微塵の緩みも見せない。
欲望は高まったままだった。むしろ、さらにキリがなく沸き上がる。
そんな自らへの嫌悪感と罪悪感と。
他のすべての負の感情が渦を巻いて、尊の理性のタガを吹き飛ばす。
そして夜更けまで、尊の自慰は止めようもなく続いた。
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