【オスカル&エリオット】老いの幸せ

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【オスカル&エリオット】老いの幸せ

「ごめんなさい、オスカル……」  そう、病床のエリオットは小さく呟く。  互いに年を取って老いたけれど、彼の美しさはなにも損なわれていないと思う。白くなった髪も似合うし、笑い皺も可愛い。それだけ沢山、一緒に笑顔の時を過ごしたんだ。  病床に伏して二年、もう、時間はないと言われた。それはオスカルだって分かっている。握っている手に力が入っていない。目は、まだ見えているだろうか。  でも、例え見えていなくても笑う。だって、何一つ彼が謝る事なんてないんだから。 「どうして謝るの?」 「置いて、行ってしまう。寂しくさせてしまいます」  バカだな、そんな事を気にしていたなんて。平気なのに。その分沢山、素敵な時間を積み重ねたんだ。  側には養女のフィニもいる。今年十五歳だがしっかり者で……甘えん坊だ。  他にも二人男の子を引き取った。十八歳のオスカーと、十七歳のエヴァン。二人とも騎士団に入った。頑張っているらしい。  ファウストが想像よりもずっと若く死んだ。あんなに頑張っていたのに、退団後はランバートと二人で別宅に移り住んで余生を楽しむはずだったのに……定年すら、迎えられなかった。  その事実はオスカルの中で重く響いた。だからこそ、渋るエリオットを説得して早期退団をした。  その後で色々したけれど、一番は養子を取った事だった。  教会は十五歳辺りでもう独り立ちの為の職探しを始める。逆を言えばその年齢になると養子は諦めている。けれど既に六十が見えている二人にとっては、子育てを最初からする力はなかった。  オスカーは全体のリーダーをしているような活発な子だった。同じ教会の子が虐められたりしたら乗り込んでいくような気概が気に入った。  エヴァンは少し気は弱いけれど頭が良くて器用だった。オスカーがいつも考えなしに突っ込んでいくのをフォローしているのを見ていい補佐役だと思った。  フィニは小柄で引っ込み思案で、恥ずかしがり屋な女の子だった。でも、とても優しかった。  この三人を引き取って数年、とても楽しくて賑やかな時間だった。  やるべき事がまだあったのではないか。ファウストの治療ができなかった。そんな事を考え沈み込んでいたエリオットにまた笑顔が戻って、他のやりがいも見つけて、そこに希望も見た。  その時間の全てが、宝物だから。 「寂しくないよ」 「え?」 「エリオットと、沢山幸せな時間を過ごした。沢山笑って、バカもして。凄く幸せだったね」 「オスカル」 「ほんと、皆バカばっかでさ。退屈な時間を探す方が難しいくらいだよ」 「そうですね」  ふと、笑ってくれた。それになによりほっとする。 「それに、みんないる。オスカー、エヴァン、フィニ。僕には家族がいるから大丈夫。エリオットの方こそ、寂しくなるんじゃない?」  冗談っぽく言えば、彼は寂しそうに笑って頷いた。  寂しい、よね。本当は凄く寂しがり屋だから。  ギュッと握った手に、弱く力が加わった。 「そんなに待たせないよ」 「長生きしてください」 「待たせちゃうよ?」 「平気です。貴方を見ていますから」  そう言って笑った後、エリオットは静かに息を吐いて目を閉じた。 「エリオット?」 「はい」 「眠いの?」 「そうですね。でももう少し、話していたいです」 「いいよ、一晩中話してあげる。ネタは尽きないもの」  包むように手を握って、オスカルはずっと話をした。  出会った頃の話、仲間との話、楽しい話も哀しい話もした。  フィニに呼ばれてオスカーとエヴァンが駆けつけて、随分歳を取ったグリフィスまできて……次の日の朝方に、息を引き取った。  穏やかで、幸せそうに笑っている。まるで眠っているみたいな、綺麗な最後だった。 「約束するよ、エリオット。僕は幸せに生きるよ。大丈夫、沢山の思い出も、想いも消えていない。全部が僕の中にあるから、思い出しているだけで時間なんてあっという間だよ」  胸の上で手を組ませて、そっと額にキスをして。そこに落ちた一滴が、オスカルが流した唯一の涙だった。
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