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インタビュー
「……え〜、たった今入って来たニュースです。東京都港区で身元不明の変死体が発見されました。現在、自殺他殺の両面で捜査が続けられています。え〜、お時間となったようてす。では、出勤の皆様、今日も元気に行ってらっしゃい」
朝のニュース番組が終わった後、明るい音楽が流れ、中肉中背で30代後半の年齢だと見られるイケメンアナウンサーがテレビに映った。彼は一礼した後、話す。
「おはようございます。『日本の未来』司会の児玉です。本日のゲストは、出版された本の総発行部数が1億部というとんでもない記録を打ち立てました天才ミステリー作家、西山賢聖先生です。今日は、よろしくお願いします」
「よろしくどうぞ」
西山賢聖は椅子に深く腰を掛けたまま軽くお辞儀をして言った。イケメンアナウンサーも椅子に腰掛け話す。
「西山先生の作品は、緻密なプロットと驚きの展開により、読者を魅了し続けています。独創的なアイデアや精緻な推理力は、多くの読者や作家達からも高く評価され、日本国内だけでなく、海外でも翻訳出版され、広く知られています。登場人物達の個性的なキャラクターと、その描写力に読者は引き込まれます。また、必ずしも『殺人事件』がテーマとは限らず、物語は探偵たちの知恵や推理により、行方不明者の捜索や秘密の暴露など、いろんな局面で展開されます。御年75歳という大御所ながら、若者の心理描写も違和感なく、頭が下がる思いです。私も先生のファンの1人として、いくつもの作品を見させて頂いています」
「それはそれは、ありがとうございます」
「今日は、西山先生にインタビュー形式で作品の魅力を語って頂こうと思います。どうぞ、よろしくお願いします」
「よろしくどうぞ」
普段は、しかめっ面が多く、周りの人から印象の良くない西山だったが、テレビ映りを気にして出来る限りの笑顔で対応した。
「では、早速質問させて頂こうと思います。西山先生はデビュー当時、ミステリーではない小説をお書きでしたが、何か心境の変化のようなものがおありだったのでしょうか?」
西山は少しだけ顔をしかめた後、作り笑顔で答える。
「まあ、経験によるものも大きいと思いますね。色々な小説を書き、また、他の方の作品を目にするうちにミステリーの魅力に気付かされたといったところでしょうか」
「ミステリー小説メインに移行されてから爆発的な人気になりましたよね。先生がミステリー小説を書くにあたり、最も重要視されている部分というのは、どこになるのでしょうか?」
「そうですね、会話でも何でも、相手に内容を伝えるには5W1Hが大事です」
「いつ、どこで、誰が、何を、何故、どのように、という事ですね」
「そうです。殺人事件ではアリバイが絶対必要というのは言うまでもないですよね」
「ドラマとかでよく見る、『事件当時、あなたは、どこで何をしていましたか?』ってやつですね」
「そうです。その上で、どのように……例えば、殺人方法などですが、密室だったり、アリバイトリックだったり、心理的なトリックだったりと、色々あります。そして、誰が……例えば、双子の兄弟が入れ替わっていた……だとか、加害者と被害者が親子だった……とか、死んだと思っていた人物が犯人だった……とか、意外性を持たせる訳です」
「なるほど」
「私が1番大事だと感じているのは、何故……つまり殺害動機です。これは、平凡過ぎる理由だと面白くないし、意外過ぎても読者の共感を得られないというシビアな部分なんです」
「確かにそうですよね」
「いかに、意外性を持たせながら納得できる理由を作れるかが鍵となる訳です」
「なるほど。過去の先生の作品も全て、驚きの展開ながら共感できるものばかりでいつも感心させられます」
「いえいえ、何とかアイデアを絞り出しています」
「どうですか?ご自身から見て、現在執筆中の作品もその辺りクリアされてますか?」
「そうですね、期待して待っていてください」
「いやあ、楽しみです。公開は間近ですか?」
「そうですね……この放送がオンエアされる頃には、発表できると考えています」
「待ち遠しいですね。これからも素晴らしい作品を私達読者に届け続けてください。今日はありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「本日のお客様は、天才ミステリー作家の西山賢聖さんでした。では、また来週にお目にかかりましょう。さようなら〜」
明るい音楽が流れると、イケメンアナウンサーは椅子に座ったまま手を振って番組が終わった。
テレビには、都内某所の高い場所から撮っていると思われる映像とアップテンポな音楽が流れた。ニュース番組が始まるようだ。美人女性アナウンサーは神妙な面持ちで一礼をすると、タイトルコールもせずに話し出す。
「速報です。先程お伝えした東京都港区の事件の続報ですが、変死体の人物がミステリー作家の西山賢聖さんだと判明しました。自筆とみられる遺書が見つかっており、自殺が濃厚との事です。遺書には『私の最後のトリック、あなた達に解く事が出来るかな』と意味深な文章が記されていました。いくつもの不明な点があり、死因も謎だと警察は発表しています。順風満帆に思われた人生に何があったのでしょうか?新町さん、どう思われますか?」
美人アナウンサーは、歯に衣着せぬ発言で人気急上昇中のイケメンコメンテーター、新町に話題を振った。新町は苦笑いを浮かべながら答える。
「僕ね、西山先生と1度だけ、お話した事あるんですよ。また炎上しちゃうのを覚悟で不謹慎な事言っちゃいますけど、自殺も自分のミステリー作品の一部って事で、どのように死んだのか、その方法などをファン達に推理させるという意図なんじゃないですかね?死因もハッキリしていないって情報でしたよね?遺書の内容もそのように受け取れます。西山先生って、作品の為なら命を賭けるってタイプだったんで……」
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