5人が本棚に入れています
本棚に追加
弟子、佐藤
1か月程前……
「佐藤!次の作品の締切が迫っているぞ!全然筆が進んどらんじゃないか!」
「すみません」
西山に一喝された、白髪交じりの長髪の男性。40歳という年齢の割には筋肉質。だが、身なりを全く気にせず、毎日同じようなノーブランドの服を着、結婚もしておらず彼女もいない。この佐藤という男……西山作品のトリック担当として10年近く雇われている。一応、世間には西山の弟子という関係性で認識されている。一昔前、佐藤の小説は、描写力不足が露呈して、コンテストに作品を応募しても最初の数ページを読まれただけで、あっさり落選になっていた。そんな中、殺人トリックに自信の無かった西山が、素人作品から参考に出来ないかと読み探している時、偶然、佐藤の作品を目にしたのだ。それからコンタクトをとり、今では西山の右腕となっている。佐藤の殺人トリックは、当時から世界に通用するレベルだった。だからこそ、西山作品と共鳴し、爆発的な人気となったのだ。だが、世間には公表されていない。半ゴーストライターという状況だった。最初と比べ、給料はかなり上がったが、力関係は出会った頃のまま……いや、弟子という事で西山に遠慮がなくなった分、パワハラ感が否めなくなっている。
現在、佐藤は少しスランプ気味で、良い殺人トリックが浮かんでこなかった。だが、問題は無い。こんな時の為に、最高のトリックを1つストックしているからだ。とは言え、そのトリックが小説に使われる事は無いようだ。
「しっかりしろ!もう他の部分は出来上がっとるんだぞ!私の力で売れない作家に仕事を作ってあげたというのに感謝の気持ちとやる気が全く足りとらん。恩を仇で返すような事はするなよ!」
「すみません……」
「私はテレビの収録があるから。終われば戻ってくる。それまでに進めておくように」
「……分かりました」
「では……」
「あっ先生、その前に……」
「……何だ?」
「次回作の本の最後に自筆のコメントとサインを頂きたいのですが……」
「……ああ、分かった。何て書けば良いんだ?」
「『私の最期のトリック、あなた達に解く事が出来るかな』とお願いします」
了
最初のコメントを投稿しよう!