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「左衛門さんの側室を探してもらえないでしょうか」
「お梅さん、よく決断していただけました」
思い切って義母に話すと、彼女は目尻の皺を深くして喜んだ。罪悪感が胸を締め付ける。お梅の夫に新しい嫁を作ることに胸が痛んだ。
「実はもう見繕っていたの。すぐ手続きをするわ」
「ありがとうございます」
僕の笑みは引き攣っていないだろうか。お梅のように美しく笑えているだろうか。
数日後、側室候補と顔を合わせ、1ヶ月後迎えることとなった。もちろん左衛門には秘密にして。
「説明は私からいたします。お梅さんは申し訳ないのだけれど」
「はい。今夜は自室におります」
「えぇごめんなさいね。でも側室になるあの子はいい子だから。あなたの立場は奪わないと思うわ。安心して」
「もちろんです」
左衛門がお梅を愛しているのは分かっている。でも僕がいなくなったあと、彼のそばにいる人物が必要だった。
「ではよろしくお願いします。お義母さま」
「ええ。はぁ左衛門も分かってくれるといいけれど」
側室を娶るまではテキパキと動いていた彼女も、いざ息子に説明するのは勇気がいるようだ。
どうか左衛門さんが彼女を気に入りますように。お梅さんに申し訳なく思いつつも、僕は願った。もうすぐ夜が更けようとしている。胸のギリギリとした痛みに震える手を握ると、左手首の古傷が疼いた。
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