月夜に出逢った不思議な女

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「サトシ君、あの男のような大人にはならないでね。」 「は、はは。」 にっこりと笑う彼女に顔が引き攣った。 でも、俺は気がついた。 憎まれ口をする彼女の、去るあの男を見る目に。 まさか、初恋って。 聞かない事にする。 中学生だけど、わかるんだよな。 友達とか、周りを見れば知ってしまうんだ。 「私も行こうかしら、あの男が来たんだからね。」 重い溜息をついた彼女は俺に近づいてきた。 「私、時々来るから、また会いましょう!」 にっこりと笑う彼女は手を差し出してきた。 「へ?」 「挨拶よ、挨拶。」 戸惑う俺に彼女は笑顔を絶やさない。 仕方なく手を握ったその時に驚いてしまった。 ………………めちゃくちゃ冷たい!!! どういうことだ? 唖然とする俺を見て、綺麗に笑った。 「またね、サトシ君!」 軽やかに歩いていく彼女を見つつ、握った掌を見る。 なんで、あんなに冷たいんだろう。 首を傾けながら顔を上げると彼女の姿は無かった。 え? またもや、唖然とする俺は辺りを一生懸命に探した。 あれから、何年経つんだろうな。 確かに感触はあったんだよ。 かなり冷たかったけどな。 あの彼女は好きなんだろうな。 あの男を。 今ならわかる。 あの時の胸の高鳴りもな。 きっと恋をしていたんだろう。 あれから何回も行ったけど会えなかったからな。 これがバレたら俺の面目丸つぶれだから言わない。 だけど、もし、またあそこへ行ったら会えるかな? いつかは。 なあ、結衣。 〈終わり。〉
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