決行

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決行

 しげのりさんの話を聞いてる間、僕は呪いの家をネタにした記事を書くのは止めようと決心していた。話を聞いているうちに死人が出ているものをネタにして記事を書くことに抵抗を覚えたからだ。  興味を持った読者がこの町に来てしまう可能性もある。マイナー雑誌だけど読者数はゼロではない。人から人へ口伝えに【●●町の呪いの家】の噂が広がり、昔のように死者が増えるかもしれない。今はインターネットの発達のおかげで情報が広まりやすくなっている。一度広まってしまえば噂を完全に払拭するのは難しい。  一時期呪いの家が有名になり、死者が増え、やっとの思いで呪いの家を世間から見えなくしたのに、一人のフリージャーナリストによって再び注目の的になる――あまりにも責任が重すぎる。僕は人の命を背負えるほどの重圧を経験したことはないし、そこまでの重りを背負うつもりもない。呪いの家のことは僕の胸にしまっておくべきだ。怪談特集のネタは僕の創作にしよう。ホラーものは一度も書いたことないけど頑張ろう。  三日目。今日が最終日だ。体調が悪い。昨夜、しげのりさんの話を聞いた後に夕食を食べてすぐに寝てしまったせいだろう。胃がモヤモヤして気持ち悪い。しかしこの日はのんびり過ごす予定だったのだから結果オーライだ。こんな状態で呪いの家に行こうなんて思えるはずがない。  少なくとも午前中まではそうだった。  昼になると午前中の気持ち悪さは幻だったのではと思うぐらい回復した。体の心配がなくなった後はずっと呪いの家のことばかり考えている。家の内部が知りたい。日本人形で埋め尽くされていると思う。でも、全ての謎が解ける何かが見つかるのではないかという期待もある。  夕方になると他のことが考えられなくなるぐらい呪いの家が頭を占拠していた。もう呪いの家についての取材は止めるし、特集記事には使わないと決心したのにどうしてこんなにも僕の心を離さないのか。  家の中に入るための準備は整っている。  もう我慢の限界だった。  夜中になったら抜け出そう。大丈夫。そもそも本当に入っただけで呪われて死んでしまうのか?入るだけで何もしなければ問題ないのでは? 今まで入った人はきっと触ってはいけないものに触れてしまっただけ。何もしなければ呪われないのだ。  でも――念のため。念のために怪奇現象に詳しい知り合いに連絡をしておく。彼は昔からこういう怪談に詳しい。なんでも巻き込まれたこともあるとか。話したら絶対に家に入るなと言われるだろうな。  連絡したら案の定強い口調で「入るな」と言われてしまった。でも僕はもう誰に何を言われても入るつもりでいる。  ここから先は録音にしよう。夜中に誰にも見つからずに行動するのだ。いちいちメモなんかしてられない。
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