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【大学生の不審な死の謎を追う!】
『□□月♦♦日の未明、青森県●●町の河川敷で大学生の遺体が発見された。体に目立った外傷はなく、ポケットには財布が入っていたが現金が盗られた形跡はなかった。警察は事件と事故の両面から捜査を進めている』
『□□月♢♢日、河川敷で見つかった大学生の死因が【圧死】と発表された。解剖の結果、臓器が圧迫されて潰れていたと捜査関係者への取材で明らかになった。河川敷に重量のある物はなく犯人が持ち去ったとみられ、警察は複数人による犯行とみて捜査を続けている』
ここまでは普通の事件の記事。問題はこの後の遺族のインタビューだ。内容が明らかに他の事件と違っていた。
『あの子は家に入ってしまったんです。あの呪いの家に。入ってはいけないと小さな頃から言い聞かせ続けていたのにどうして……。事件でも事故でも、ましてや自殺でもないんです。これは呪殺なんですよ』
呪いの家、呪殺。その言葉が目に入った瞬間、これは怪談特集に使えるのではないかと思った。呪いの被害者となった大学生の名前は記事に載っていたので、さらに情報を集めようとインターネットで直接大学生の名前を打ち込んでみたところ、新聞の記事では得られなかった情報も見つけることができた。
遺族はイタコに口寄せを依頼していたのだ。青森県でイタコといえば恐山が有名だ。僕自身は半信半疑だけど、遺族の人達はおそらくイタコが身近な存在だったからその力を疑うことなく依頼をしたのだろう。時代的にもオカルトが信じられていた頃の出来事だ。数年後にはオカルトブームが到来し、イタコ業も忙しくなって予約が取れなくなることもあったそうだから依頼できて良かったと思う。
ただ……この遺族がイタコに頼ったという話はネットの、それも素性のわからない個人サイトから得た情報だから信憑性は欠ける。しかし怪談の記事でイタコを出すのは悪くない案ではある。しかしこの内容をそのまま記事にするわけにはいかない。
実はこうして僕自身の行動記録をメモしているのもオリジナリティを出すためだったりする。そしてオリジナル要素を加え、リアリティを出すためには実際に現地へ行って取材する必要がある。読者を怖がらせるためには想像しやすく、身近にあるものが最適だろう。
例えば夜の学校。見慣れた場所であっても明るさが違うだけでそこは全く別のものに見えるものだ。暗さは視界を狭める。暗闇の中からナニカが飛び出してくるかもしれない。ナニカに襲われて死んでしまう――そこまで考えて怖くなり、スタイリッシュに逃げる妄想をするまでがセットだ。日本では学校に通ったことがないという人は滅多にいないから想像を掻き立てやすいだろう。そういえば子供の頃の僕は授業中にそんな妄想を繰り広げていた。ちょっと恥ずかしいけどこのエピソードもメモしておこう。何が役に立つかわからないからな。
とはいえ呪いの家は身近にあるものではない。怖くするために工夫をしなくては。『呪いは伝染する』はどうだろう。範囲が広がるほど対象になる確率は上がる。しかし呪いの家からどうやって呪いを広げれば良いのか。人であれば呪いを振り撒けられるけど家は動かしようがない。
良い案が浮かばなかったので取材準備を始めた。こういうときは悶々と考え続けるのではなく動くのが良い。明日だ。明日青森県へ行って呪いの家を見てこよう。
そもそも本当に呪いの家が存在するのか。存在していたとしたらどれだけ不気味なのか。舞台となる家の描写は大切だ。それに家があってもなくても自分の目で見て、感じたことを書けば良い記事が出来上がるはず。
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