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【録音記録1】
以下は録音した音声を書き起こしたものである。※録音は全ての人に許可を取った。
※ ※ ※
『すみません。事前にお話をした通り取材を行いたいのですが、実は●●町には呪いの家と呼ばれている物件があると耳にしたのです。その家は本当に存在するのですか?』
『え、ええ。夫から聞いたことはありますが……申し訳ございません。私は県外から来たので詳しいことを教えてもらっていないのです。ただ、その家には入るなと言われているだけでして』
『県外から! この町に来るまで呪いの家については何も?』
『聞いたことありませんでした。結婚前に呪いの家があると教えてもらい、その家には絶対に入るなと念を押されて場所を教えてもらっただけです』
『実際に見たことは?』
『ありません。今まで呪いのことは信じていませんでしたが、夫とお義父さんとお義母さん、それに近所の人たちまで怖いぐらい真剣な顔で話していたのですっかり怖くなってしまって。この町に来てからもう五年は経ちましたがまだ呪いの家の周辺には行っていません』
※ ※ ※
みゆきさんの取材を終えた後、玄関の戸が開いて男性が入ってきた。みゆきさんが「お帰りなさい」と、嬉しそうに言っていたのですぐに彼がみゆきさんの旦那だと気づいた。
みゆきさんの旦那――みちおさん(仮名)は僕の顔を見て一瞬だけ老夫婦と同じように驚いた顔をした。挨拶を交わした後、みゆきさんは部屋の掃除があるのでと客室の方へ行ってしまったが、代わりにみちおさんから話を聞くことができた。
※ ※ ※
『呪いの家についての取材ですか。もちろん良いですよ。祖父母は誰にも知られたくないと思っていますが、僕は同じ過ちを繰り返さないためにも伝えていくべきだと考えているんです。少し、重い話になりますが聞いてもらえますか? 実は……三十年前、僕の両親は呪いの家に殺されているんです』
『え……家に……』
『僕が五歳のときでした。両親は呪いの家にこけしを捨てに行ったんです。あの家には昔からこけしが転がっていました。いつから捨てられるようになったのかはわかりませんが、祖父母が生まれる前から捨てられていたので歴史はかなり長いと思います』
『こけし? こけしを呪いの家に捨てても影響はなかったのですか?』
『呪いの家に入らなければ影響はありません。敷地の外から放り投げれば大丈夫です。しかし両親はなぜか家の中に入ってしまったのです。入るところを見た人はいないので理由はわかりません。祖父母からあんなに入るなと言われていたのに……』
『誰も見ていない……。捨てに行った時間は夜中であっていますか?』
『はい。僕が寝てる間に捨てに行ったようです。実はそのこけしは僕が拾ったものでした。一体だけ呪いの家の敷地外に出ていて、両親の目を盗んで拾ったのです。子供の手の平サイズのとても小さいこけしだったのでポケットに入れても家まで隠し通せましたが、上着を脱いだときに見つかってしまいました。今思えばどうして拾ってしまったのか……拾わなければ両親は今も生きていたのに……。朝、両親は玄関で倒れていました。扉は開けっ放しで、おそらく家に入った瞬間に倒れたのでしょう。驚いた僕は大泣きして、その声を聞きつけた近所の人が祖父母や警察に連絡してくれたのです』
『そんなことが……お辛い話、ありがとうございます』
『こちらこそ長年溜め込んでいたものを聞いてくださってありがとうございます。妻には余計な気をつかわせたくなくて詳しく話せなかったので。おかげでスッキリしました。竹井さんは呪いの家を調査するんですか? くれぐれも中には入らないようにしてください。では僕は仕事がありますのでこれで』
『貴重なお話ありがとうございました』
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