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【呪いの家の観察】
みちおさんの取材を終えた僕は呪いの家の住所を教えてもらい、まだ日が落ちるまで時間があったので実物を見に行くことにした。直近で亡くなった人の話は聞けなかったが、呪いの家は存在していたこと、さらに新情報としてたくさんのこけしが捨てられていることがわかった。
しかしなぜこけしが捨てられるのだろう。家の中に入らないかぎり影響はないと言っていたが果たして本当に何もないのか。わざわざ呪いの家と呼ばれる家に捨てるのだから理由があるはずだ。まずは呪いの家を実際に観察して、それから近所で取材をしてみることにした。
教えてもらった住所の近くに行くと、明らかに一軒だけ纏う雰囲気が他と違う家があった。その家の周りは木で囲まれていてまるで隔離されているかのようだ。まず目についた違和感は周囲の木が枯れていること。六月のこの時期だったら青々とした葉が茂っているはずなのに一つも葉っぱが見当たらない。それどころか地面には雑草すら生えていない。どの土にも目を凝らせば必ず虫の一匹や二匹くらい見つかるのに生命がいる気配は全く感じられなかった。
次に家の見た目。平均的な成人男性の肩ほどの高さの石の塀で囲まれた呪いの家は、意外にもしっかりと形を保っている。地震が起きてもちょっとやそっとでは崩れなさそうな力強さを感じた。今まで見てきた人の手が加えられていない家は、屋根が潰れて木材の腐敗が進んでいるのが常だった。呪いの家も崩れてしまいそうな状態になっていると想像していたので本当にこれが呪いの家なのかと少々疑ってしまった。
そして周辺の道路。異様に綺麗なのだ。この町の道は年季が入っていてところどころひび割れしているのだが、呪いの家周辺の道路は出来たてのように黒々としたコンクリートなのだ。つい最近まで工事をしていたのだろうか?
小さな違和感が続く。その中でも一番異様なもの――それはやはり【こけし】だった。みちおさんが話していた通り敷地内にはたくさんのこけしが散乱している。呪いの家のことを知らなくてもこの大量のこけしを見たらここは決して普通の家なんかじゃないと確信できる。こけしは大小さまざまで、雨風に汚れていないこけしもある。つい最近捨てられたのも混じっているのかもしれない。こけしを呪いの家に捨てることで何の効果があるのだろう。さっぱり見当がつかない。
家の正面を観察した後はぐるりと一周してみようと思い、草も生えていない地面へ一歩足を踏み入れた。土の感触は少しふわふわしているだけで変なところはない。枯れ木は触れたら倒れてしまうんじゃないかと思って観察するだけに留めたが、近づいたら焦げ臭いにおいが漂った気がした。
周辺はこれ以上は何も見つからなかったので呪いの家の観察を始めることにした。まずは
空いてる窓がないか探してみたが、どこもきっちりと閉まっていて中は暗くて何も見えない。昼間に来ていたら見えただろうか? しかし僕が滞在している間は雲が晴れることはない。どの時間帯に来ても外から中を見ることはできなかったかもしれない。
しばらく観察してみたがこれ以上の収穫は得られなかった。僕はいくつか写真を撮って近所の人へ聞き込みをすることにした。正直これだけでも記事は十分できそうだったが、せっかくここまで来たのだし三日も滞在するのだ。呪いの家には謎が多い。謎をそのままにしておくのはモヤモヤが残る。この三日間で謎を解き明かしてしまおうじゃないか。気分は探偵だった。
そうと決まればまずは呪いの家の隣の家。といっても一軒家五つ分ぐらい離れているが。その家に住んでいる山下さん(仮名)という女性に呪いの家のこけしについて話を聞くことができた。
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