写真チェック

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写真チェック

 宿屋に戻った僕は入口の掃除をしていたみゆきさんに老夫婦と話せないか交渉してみた。本当の理由は話さず、昔からこの町に住んでいる人の話を聞きたいと言ってみたが彼女は困ったように眉を寄せて首を振った。  みゆきさんは小声で「お客様に合わせる顔がないって言ってました」と教えてくれた。どうやら彼らは僕の顔を見たくないようだ。みゆきさんは夫と相談してみますと言ってくれたが、奥から引っ張り出すのは難しそうだ。上手くいくことを祈ろう。  部屋へ戻った後は呪いの家の写真を見ることにした。写真で見ることで新たな発見があるかもしれないと思ったからだ。ノートパソコンを立ち上げてカメラのSDカードを入れ、一覧を表示させる。  正直、あまり期待していなかった。むしろ写真を整理するつもりだった。似たような写真は何枚もいらないから。  しかし一枚も消せなかった。  どうして実物を見ていたときに気づかなかったのか。こんなにもわかりやすいのに。  呪いの家の窓――実際に観察していたときは暗くて何も見えないと思っていたが『暗い』わけじゃなかった。  これは髪だ。長い髪の毛が窓にびっしりと張り付いている。これじゃあどんなに明るくても家の中なんて見えやしない。    そして二階の窓。そこには日本人形がずらりと並び、僕を見下ろしている。呪いの家を観察したとき、写真を撮ったとき、いずれのときも日本人形はいなかったはずだ。髪だって一目見ればわかるのに気づかないなんてことあるのか?  写真を消したい。  写真の中の人形と目が合った。  消すのは、やめよう。  写真を消したところで何も起こらない。とは言い切れなくなってきた。パソコン内に写真を残したくないから今はこのままにして帰ったらお祓いしてもらおう。……捨てないにしても二度とこのカメラは使えないかもしれない。  次の写真を見ることにした。本当は見たくなかったけど見なきゃいけない気がしたのだ。二枚目、三枚目と写真を見ていく。驚いたことに少しずつこちらを見る日本人形が増えてきている。四枚目……真っ赤な人形がいた。五枚目になると一階と二階の全ての窓から僕を真っ直ぐ見つめ、何体か外に出ている。写真を撮るたびに時が進んでいるかのようだ。  写真は全部で十枚ある。    六枚目……七枚目……手が止まらない。たくさんの人形が外に出て近づいてきている。  八枚……九枚……たくさんの人形がお行儀よく二列に並んで近づいてくる。近い。  十  目がない。  全身がぞわりとした。  最後の一枚は目玉がない日本人形がアップで写っていた。  これ以上見てられなくて一枚目の写真へ戻る。一覧の表示を画像縮小にしていなくて良かった。小さくてもアレがずっと表示されていると思うとゾッとする。  一枚目の写真は遠くから撮っていて、人形はまだ二階しかこちらを見ていない。普通はそれだけでも不気味なのに十枚目と比べたら可愛らしいもの……と思えていたのは観察を始める前までだった。  冷静に四枚目まで観察する。五枚目以降は外に出て近づいてくるから見る勇気が出ない。 日本人形たちに同一の人形はなく、一つ一つ個性を持っていた。髪の短い人形、目を片方失っている人形、逆に新品と思わせるほど美しい人形……日本人形たちはまるで生きているかのように見える。  その中で一つ、異様な日本人形があった。  あいつだ。十枚目にアップで写っていたあの人形だ。たしか五枚目から九枚目までこの人形は写っていなかったはず。鮮血で染め上げた着物を着ているように見えるその人形は四枚目から出てきているが、十枚目までどこにいたのだろう。  写真から想像するに、この人形は玄関で浮いているから五枚目以降は空中にいると考えられる。人形が浮くか否かは問題視しない。呪いの家なのだから常識は通用しないものだ。  しかし……写真を撮ったときは玄関の扉は閉められていた。この真っ赤な日本人形は人形たちのいわゆる『ボス』に当たるのだろう。目的は何なのか。家の中に入れと誘導しているようにも見えない。わからない。呪いの家にいる人形なのだから表情くらい変えればいいのに。  そういえば近所の人たちは呪いの家の日本人形のことを知っているのだろうか。明日の取材では人形について聞いてみよう。  SDカードを抜き、パソコンの電源を落とす。今日は眠れるだろうか。夢にあの人形が出てきそうで寝る気が起きない。  結局一睡もできないまま朝を迎えることになった。
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