【怪談特集に使用する行動記録】

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【怪談特集に使用する行動記録】

 きっかけは記事を書くためのネタ集めだった。  フリーのジャーナリストとして活動を始めてから数ヶ月、ようやく東京の小さな雑誌出版社と契約することができた。この出版社は主に芸能や健康をテーマとしているが、月ごとに特集記事も掲載している。  来月号の特集は『毎年恒例夏の怪談特集! 梅雨のじめじめに負けないジメッとした話を楽しもう!』だ。  僕――竹井俊史(たけいしゅんじ)は、出版社からの依頼で怪談話を書くことになったのだが、来月号の特集記事を今から書くというのはどうなんだろう。おおよそ原稿用紙十五枚分を執筆しなければならないのだが期間が短すぎやしないかと悶々としていた。  実績があれば断ることもできただろう。しかしフリージャーナリストになってからの実績はゼロ。おまけにホラーは完全に専門外だった。むしろこの怪談特集が実績となるのだ。将来、自分の書きたい記事を書くためにも依頼を受けるしかない。渋々……もちろん態度には出さないが、渋々依頼を受けたのだった。  慣れない作業では倍の時間がかかる。書いては消しを繰り返し、資料集めに図書館へ通ったり日帰りで取材したりしたけど、一向に納得のいく怪談話ができなかった。内容に説得力を持たせるために近所の心霊スポットを訪れたが、実際に見てみればただの自然現象。風の通り道や背の高い雑草が幽霊のように見えただけで目撃者の勘違いでしかなかった。  時間がない。焦りを感じるものの稚拙な内容で提出するのは僕のプライドが許さないし、あいつは幼稚な文章しか書けないと思われて依頼が来なくなるようでは困る。  行き詰まりを感じた僕は視野を広げようと過去の新聞を読み始めた。昔は科学が未発達だったから未解決事件や不審死が多かった。もしかしたら奇妙な事件が載っているかもしれない。それを足がかりにすれば良い記事が書ける――そんな期待を込めて探し始めたら、当たった。望んでいた事件を見つけたのだ。 『とある大学生の不審死』  目立った外傷はなし、持病もなし。健康な大学生が不審な死を遂げたのだ。何の前触れもなく亡くなってしまうこともあるだろうが、この大学生の死は住んでいた地域に問題があった。  これは使えるかもしれない。僕はすぐに新聞記事をコピーしてノートに貼り付けた。
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