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2 すり合わせ
「そんなことになってたのか……」
アランの報告を聞き、トーヤは考え込んだ。
やはりマユリアに穢れの影響が出ているらしいこと、それから「最後のシャンタル」は血の穢れからその資格を失うかも知れないということ。
「結構厳しい話だな」
「ああ」
トーヤの言葉にアランもそう答えた。
思えば最後のシャンタルがどうなるかは考えたことがなかった。いや、あったのかも知れないが、結局考えてもどうなることでもない、とりあえずは次の交代をうまくいかせることだけを考えよう、そう思ってそこで考えるのをやめていたように思う。
「ちょっと考えさせてくれ」
「俺も」
トーヤとアランはそう言ってそれぞれの寝室へ引きこもった。
ベルとシャンタル、そしてミーヤの3人は応接室で座っている。
「あの、一体何をしに行ったんでしょう」
「ああ、すりあわせ?」
「すり合わせ?」
「うん、いつ頃からだったかなあ、トーヤと兄貴がそれぞれ別のところでなんか考えて、そんで後からそれで合ってるかどうかすり合わせて、そんで次のこと決めるってのやるようになったんだよ」
「ああ、それですり合わせ」
「そう」
ベルとシャンタルによると、最初は小さなことからトーヤがそうやってアランの考えを聞くようになり、いつからか完全にそれぞれの考えを持ち寄って調整するようになったのだそうだ。
「不思議なんだよなあ、大抵2人の意見が同じになんだよ」
「そうだよね、不思議だね」
「そうなのですか」
ミーヤも聞いて不思議に思う。
そんな話をしながら待っていると、半刻ほどしたらトーヤとアランが応接に出てきた。
「よう、そっちはどうなった」
「うん、まあ適当に。トーヤは?」
「とりあえずそっち聞かせてくれ」
「分かった」
と、アランがまず自分の考えを述べる。
「なんか、とんでもない結果が出たぜ、シャンタリオ乗っ取りだ」
アランがとんでもない言葉をいつものように冷静に口にした。
「え、ええっ!」
あまりに自然に耳に入ったもので、ミーヤが一瞬遅れて驚く。
「そうか、俺もだ」
トーヤもアランの意見に同意するが、今度はミーヤは言葉も出ないまま、黙って驚いた顔でトーヤを見つめるだけだった。
「そんで、どういうとこからそうなった?」
「うん、まずな、ずっと前からなんでだろうって言ってただろ、神官長の動きだ」
「親父と息子、どっちの味方だってのか」
「そうだ」
トーヤとアランの意見は同じようだった。
「どっちにつきたいのかよう分からんと思ってたが、そりゃ女神様を頂点にしてその次に自分が座りゃ、思った通りにこの国を動かせるよな」
「そういうことだな」
「そのために親子をぶつけて、そんな王様ならいらねえって民に見捨てさせるつもりだろう」
「ああ、マユリアの取り合いもしてるし、しょうもない親子だっての散々見せつけられてげんなりしたところで、本当の女神の国にするのはどうだって言い出そうってことだな」
2人が互いの意見を確かめ合い、間違いがなさそうだということになっていく。
「俺たちが知らない事実がまだあれば話は違ってくるが、今んところ分かってることを俺とアランですり合わせたらそういう結果になった」
「分かった、俺も同じだ」
トーヤが話をしめてすり合わせが終わる。
「おまえら、なんか思うことあるか」
「うん」
今度はベルが2人の推測を聞いて疑問に思ったことなどを尋ねる番だ。
「その話な、一体誰が言い出したんだろ?」
「そりゃ神官長だろう」
「うん、実際に言ってるのはそうだけどさ、思いついたのも神官長?」
「ああ、そういうことか」
アランがベルの疑問になるほど、と答える。
「そういう話もきっと神官長としてるかも知れないけど、俺とミーヤさんには特にそういうこと、言わなかったですよね」
「ええ、神官長が婚姻の話をマユリアに持ってきた、としか」
「キリエさんは俺らと違って、マユリアの中に誰かがいる可能性は考えてないだろう」
トーヤの言葉にアランとミーヤが頷く。
「そこが八年前と一番違う点だ。あの時は話せる話はお互いに全部話して情報の共有ができてた。だけど今回は、お互いに全部を伝えてない。俺たちが知ってることをキリエさんたちが知らないように、あっちが知ってることをこっちが知らない可能性も高い」
その通りだった。あの光があの場所に召喚した者にしか語るなと言ったのは、おそらくそのあたりの事情があるからだろう。
「キリエさんもルギも、マユリアの命があればあっさり俺たちの敵になる」
トーヤがあらためてその言葉を口にした。
「おっと、何も言うなよ、あんたの言いたいことは分かる。キリエさんが自分たちにそんなことをするはずがない、そう言いたいんだろ?」
トーヤがミーヤが何かを言おうとしたのをそう言って止めた。
「キリエさんもそれが分かってるから、最低限しか俺らと関わろうとしてないんだよ、俺らがこの宮へやってきたその時からな」
そうだった。だからお互いに知らない顔をすることにした、そうトーヤに言われ、キリエからもそのように対応されていたとミーヤは思い出す。だが、頭では分かっても、心がそれを嫌だと叫ばずにはおられないだけだ。
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