1 次の世代のために

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 1 次の世代のために

「ええ、そうなのですね。今、そう言われた問題はもっと近い場所にあるのだと気がつきました」 「一体何があるんです?」  キリエが今度は、深刻さを隠さない顔でそうつぶやいた言葉に、アランも真剣な顔で答える。 「シャンタルの資格です」 「え?」 「シャンタルがマユリアになることなくご成長になられると、血の穢れを受けられて、シャンタルの資格を失うことになります」  アランはすぐには何を言われてるのか理解できなかったのだが、ミーヤがなんとも言えない困った顔になったのを見て、一瞬遅れて理解した。 「あ、あ、なるほど、分かりました」  キリエも黙って頭を下げる。 「確かに交代がなく成長すると、そういう問題が出てきますよね。うちのシャンタルは男だったので、そういう問題はなかったわけですが」  気恥ずかしさのせいだろう、アランはいつもよりちょっと早口でそう言った。 「えー、それでですね、それでいくと、当代はあと何年ぐらいだ、4、5年で資格を失う、そういう話ですよね?」 「ええ、そうなる可能性があります」 「その資格ってのを失うと、一体どんなことになるんです?」 「本当のことは分かりません」  キリエは一応そう付け加えてから言葉を続けた。 「ですが、資格を失うということは、シャンタルではいられないということ。おそらくは天に命をお返しすることになるのでは、と」 「なんですって!」  それまで冷静であったアランが、思わずそう声を上げ、キリエとミーヤが思わず身を引くほど驚いた。 「いや、すみません」  アランは自分を取り戻し、咳払いを一つすると、椅子に座りなおす。 「それ、かなり深刻な話ですよ」  アランは元の通り感情を出さない顔で続ける。 「もしかすると、当代の命があと数年、そういうことなんですか?」  元通りの顔をしているが、やや言葉が震えているようにキリエには思えた。そういえば、この方は当代と手紙のやり取りをし、お友達としてお茶や食事を共にしているのだった。 「いえ、驚かせて申し訳ありません。最悪の場合にはその可能性もあるということです。そもそもお話ししたかったのは、当代の可能性ではありませんでした」 「そうですか」  アランがホッとしたようにキリエもミーヤも感じた。 「それはあくまで先ほどの仮定の先にある話です。もしも神官長が何年も交代の日を定めぬということがあれば、その可能性もある、そういう話です」 「そうでしたね」 「ですが、当代が交代を終えて次代様がシャンタルを継承なさったとしても、同じ問題は残ってくるのです」  ああ、そうか、そうなるのか。 「アラン殿はもうご存知ですよね、きっとトーヤから聞いていると思います、あの秘密のことを」  ミーヤがトーヤから例の秘密を聞いて知っているのはすでに分かっている。きっとアランも知っているはずだ、トーヤは自分の仲間たちには話している、キリエはそう確信していた。 「どの秘密のことでしょう」  アランは簡単には答えず、念のために確認する。 「そうですね、秘密はいくつもあります。その中でも一番最後まで沈黙を守るべき秘密です」 「やっぱそれですか」  アランはそう言って一拍置くと、 「最後のシャンタルの秘密ですね」  と、言った。 「ええ、そうです」 「そうか、今までそのことは考えてきませんでした、交代をうまくすることしか」 「私もです」 「交代の後、当代と次代様のためにその後も力を貸すとトーヤは言ってました。そしてそのためにいくつか考えてもいます。ですが、最後のシャンタルが資格を失う、そのことは知らなかった」 「そうでしょうね」  アランとキリエ、どちらも内面を出さずに淡々と話してはいるが、それは本当に深く、重い問題だ。ミーヤは口を挟めずに黙って聞いているしかできない。  それに、まだキリエには言っていないこちらの秘密もある。侍女である自分は、それを問われたら返事に困る。ここはアランに任せて傍観者でいるしかない。  アランもそのことをきっと了承している。キリエもそれが分かっているだろうから、きっと自分に何かを尋ねることはないはず。ミーヤはそう思い、ただ置物ののようにここにいようと決めた。 「ですが、それはそれとして、とりあえず交代は無事に終わらせないといけませんよね。交代の日が何年も来ない、その可能性はきっと低い」 「ええ、おっしゃる通りです」 「じゃあ、なんで今、そんなに焦って話をしてこられたんです」 「マユリアです」  キリエがその名を出し、そしてとりまとめて神官長の申し出である「マユリアと国王の婚姻」の話、マユリアがこの国からシャンタルが失われる日のために、その話を受けようとしていることなどを話した。 「マユリアはこのところ、よく寝付かれています」 「それはやっぱり穢れの影響ですか?」 「分かりません。ですがその可能性もございます」 「そんな体で、その、女神マユリアが王族に入る、なんてことに耐えられるんでしょうか」 「おそらく、ご自分ではなく、当代のためにそうなさろうとしているのではと思います。マユリアが人となれば、次代マユリアには穢れの影響がないとお考えなのではと」
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