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私は立ち尽くして彼を見つめた。
私の視線に気づいた彼は、一瞬驚いて見せてから眉を顰めた。
『話しかけるなよ』
彼の目が言っていた。
それはすごく冷酷な視線だった。
愛してるものには決して向けない視線。
後部座席から小学校低学年くらいの女の子と、小柄で上品な女性が降りてきて、女の子はキャッキャとはしゃいでいる。
あ…
私は目を伏せた。
そして慌てて車に乗り込んだ。
抑えきれない感情が一気に溢れて、涙が頬を伝った。
綺麗な人。
彼の愛する人。
私は直視できなかった。
見て見ぬ振りしていた彼の守るべき家族。
モールに消えていく前にチラリと見た彼の、穏やかで優しい夫の顔。父の顔。
それは決して私には見せることのない、私の知らない顔。
涙はとめどなく溢れて、止まらない。
母はそんな私の異様な様子にギョッとしていたが、何を聞くわけでもなく、ただ黙っていてくれた。
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