月夜に

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 私の勢いに気圧(けお)された高杉さんは、渋々だが希望通り明日から四日間の有給をくれた。土日を入れると、実質六日間の休みだ。  私は一人旅に出ようと思った。  自家用車のコンパクトカーに最低限の物を積んで、朝早く出発しよう…  ちょうど紅葉の季節だ。  六日間もある。  知床まで行ってしまおうか?それとも稚内?帯広?函館もいいな…  平日だし、単身だし、宿泊場所はどうにでもなるだろう。  でもやっぱり一人は寂しいな…  高杉さんと一緒だったら楽しいのにな…  別れると決めて、今しがた少し距離を置こうと決めて休みをもらったばかりだというのに…不覚にも頭の片隅で、そんなことを考えてしまう自分に気づいて、またやるせない気持ちになる。    私はどうしようもない大馬鹿者だ。    私は肺いっぱいに空気を吸い込んで、大きく息を…邪念を吐いた。  それからは、私が休むことで仕事に穴が開かないように、余計なことを考えないように、やりかけの仕事を全て終わらせることに没頭した。退社する頃にはすっかり夜もふけていた。
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