月夜に

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 あまりに仕事に集中していたので、周りが見えていなかった。気がつけば、オフィスには私しか残っていなかった。  え…みんな帰っちゃってるし…  私、また鬼の形相で仕事してたかな…  私はひとたび集中すると、眉間に皺を寄せて、誰も寄せ付けずにパソコンと睨めっこをしてしまう癖がある。それは、ミヤに指摘されて知ったことで、高杉さんからも「もっと肩の力抜けよ…あ、目の力もな」と言われていた。  そう言った時の少し人を小バカにしたような笑顔が好きだったな…などと、隙を作るとすぐに高杉さんのことを考えてしまう。  私は、ツンと痛んだ鼻を大きくすすって、涙が零れないように天を仰いだ。  「終わったか?」  オフィスの入り口から、さも当たり前のように高杉さんが現れる。  「え…」  私は高杉さんに背を向けて、帰る支度をするふりをしながら、泣き顔を誤魔化す。そして「もう…やめてください…ほっといて!」と、私は強い口調で言い放った。それなのに高杉さんは「…だって、こうでもしないと話聞いてくれないだろ」と、いつものゆったりとした口調のままだ。    こういうところがずるい。  大人の余裕を見せつけるのだから…  
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