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気づけば暦は神無月。
ひんやりと乾いた空気が、夜空を澄み渡らせる。ふと天を仰ぐと、満ちた月が優しく見下ろしていた。
あの日も、そうだった。
彼との恋が始まった日も、今夜と同じく満ちた月の綺麗な夜だった。
彼、高杉さんは私の直属の上司。私のミスのせいで二人で残業することになった日に、ただの上司と部下だった関係がそうじゃない特別なものへと変わった。
強がりな私が見せた弱音に、高杉さんは正面から向き合ってくれた。私のプライドを傷つけないように、それでいて欲しい言葉をくれた。
私の頬を伝った涙をそっと優しく拭って、彼は私を抱きしめた。私はそんな彼の背中に手を回し、彼は私にキスをした。
私たちはそんな風に始まった。
ダメだとわかっているのに、私の恋心は満ちてしまった。
それから幾度となくひっそりと逢瀬を重ねた。そんな私たちのことを、お月様だけが知っている。
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