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「ベチャ。ベチャ。」
長靴で泥を踏むと、水気のある音がした。
山を登る少年はシャベルを肩に背負って、地面を見ながら足を一歩一歩前に出す。
他に山を登る人は見られなかった。
ここは彼だけの秘密の場所。
気を抜くと一瞬で土の中に沈んでしまう様な場所だ。
「ここら辺かな?」
片手に持っていたシャベルを地面に突き刺す。
「グサ!」
シャベルの周りの土が盛り上がり、さっき歩いていた湿った地面とは別の乾いた地面だった。
「うっしょっと!」
シャベルで掘った土がどんどんと山になり、掘った穴の深さはどんどんと深くなっていった。
「うっしょ、うっしょ」
彼は黙々と穴を掘る。放つ言葉は「うっしょ!」という独特な単語。
目には輝きがあるようで、見えなかった。
彼は無心に掘って行った。
気づくと1メートルは掘って行った。
「少し深くなったな」
そう呟くと、またシャベルを地面に突き刺し、今度は足でシャベルを踏みつけて、掘っていく。
彼の名前は、インジ。高校1年生で友達はいない。
いつも教室でギャーギャーと騒いでいる陽キャ達とは違い、いつも角の方で本を読んでいるような彼。
学校での振る舞いとは全く逆方向の趣味が、彼にはあった。
「ふう。できた。後は適当に折れやすい棒でも持ってくれば落とし穴は完成だな。」
彼の趣味、それは落とし穴を作ること。
だが、誰かを落とし穴に落とすことは今までには無かった。
なぜなら、落とし穴を作ることが趣味であり、落とすことは趣味では無いからだ。
「それじゃあ、外にでて…ってなんだこれ?」
彼は掘った穴の底を見た。
「これはなんだ?」
灰色と黒が混じり合ったような曲がった形の硬い物だった。
足で叩いてみる。
何故か少しに気になったので、曲がった硬い物を少し掘り返してみる。
みるみる内にそれは形をあらわにしてきた。
それは一つの壺のようだった。
手入れはされていたのか分からないが、割れ目は無く横に寝そべったような状態だった。
壺の中身はまだ見えていない。中を覗き込もうと持ち上げようとするが、土の重さなのか全く持ちあがらなかった。
「おっも!」
持ち上げることは出来なそうだったが、壺の口を上にあげて中身を確認する。
「こ!これって!!」
俺は目が飛び出そうになった。
なんと壺の中には黄金に輝く金が隙間なく詰められていたのだ。
壺には「徳川」と漢字が刻み込まれていた。
「俺ってもしかして!徳川埋蔵金を発見したのか!?」
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