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香吏が事前リサーチに勤しむ様子が目に浮かんで、笑みを溢す。それからも、私たちより後にやって来た香吏が「あそこはオルゴールミュージアムだ」とか「この辺りは湖西市といって、県内の最西端だ」などとガイドを続けた。
とある観光スポットに着いたのは、車を走らせて十数分経った頃だ。
「香吏くん……本当にここ、来たかったの?」
車を降り、私は訊く。ああ、と頷く香吏が歩く先には『はままつフラワーパーク』という看板が掲げられていた。
「香吏くんがフラワーパーク……」
「僕は好きだよ。花とか見るの」
大学院生の背中を見据えながら、隣を歩く真冬の言葉に苦笑を浮かべる。
「真冬は、なんか分かるんだけど。香吏くんが花を愛でる姿は想像できなくてさ」
「そうかな。辻宮さんは格好いいし、どこでも順応できそうだけど」
「……本当、二人で何を話してきたんだか」
探るように真冬を見つめると、彼はばつが悪そうに笑う。大方、香吏に口止めでもされているのだろう。
諦めの度合いも濃くなったところで、香吏から入園チケットを受け取る。ここはどうやら奢りらしく、私たちは素直に甘えた。
突然の頭痛に額を抱えたのは、ちょうどゲートを潜った後のこと。最近頻発している頭痛だったけど、今回はより鋭く響いた。
「臨未ちゃん……?」
真冬は心配そうな顔で私を覗き込む。園内マップを眺めていた香吏も、こちらを振り返っていた。
「うん……、大丈夫。ちょっと頭痛がして」
キンッ、キンッ、と杭を打たれているかのような痛みが、連続で訪れる。額を押さえた私の肩を、真冬がそっと支えてくれる。
……確か、コンビニで買った薬が鞄に入っていたはずだ。
「ごめん。水だけ、買って来てほしくて」
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