24人が本棚に入れています
本棚に追加
/147ページ
「ねえ、久理子殿、夕闇の皇子ってのは、何者かしら?」
久理子は飲んでいた水筒をぼろっと落としかけ、目を剥いて驚いた。
「あの人とは何が?あの人は、内裏でも特別な方です。帝のご親族であらせられますし、帝の御寵愛を受けておられます。歌の才能、眉目秀麗、その人格から、内裏での注目を集め、後宮でも女たちが奪い合っているぐらいで、夕闇の綺羅の君と言われています。闇夜の中に輝く星のような方だから。皆の憧れの的なのです。それゆえに、近づけば、女たちのやっかみが来ます。心を奪われでもしたら、嫉妬に狂った女の餌食になりますよ。近づかないほうが良いですよ」
「ううん、そんなのじゃないの。ただ、あの人は思ったより、きさくな方だなあと」
なら、やっぱり近づかないほうがいいと私は思った。
悪い人ではないとは思うけど・・・
(好奇心で後宮に来ただけの私に、親切に情報を教えてくれた。あれは、気のてらいのない、単なる親切だった。そこらへんの道端で困っていた婆様を助けるような、気の良い若者のような親切心があるのだわ)
でもやはり無理そう。
「内裏のときめきたる者と言われる面子の中でもトップですよ。都に出たら、都中の女が移動するとも言われているぐらいです。あの右大臣でさえ一目置き、内裏の半分の権勢は、夕闇の皇子の意向で決まってしまうと言われるぐらいです。いくら椎子殿が気に入っても、近づかないほうが良いでしょう」
「違うけど、分かったわ。そんなのじゃないの、ただ、特別そうな人だから聞いただけ。やっぱり特別な人だったのね。それなら近寄らないわ。ときめきの君に取り入って、人気者になりたいわけじゃないの。むしろ、大人しく読書したいほう。だから、私は大人しくしていることにする」
「それならいいですけど、十分、注意してくださいね。女たちの嫉妬も、男たちの嫉妬も怖いですよ。嫉妬で左遷された話は、内裏や後宮で何度も聞きますからね」
いざとなったら力強い味方にはなってくれそうだけど、反対に嫉妬勢力に恨まれるのね。
最初のコメントを投稿しよう!