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周りはうるさい。確かに近い宴会の用意で忙しい。
あちこち移動できる機会だ。この機を活かさないなんてもったいない。
(よし、やろう。このあたりをまず調べて、後宮を調べて、常盤御前がどのあたりにいるのか探すの)
私はそう思うや早く外に出て、階を降りようと、あたりを見回した。
履物を履いて、階から外へ出て行こうとして、とたん、簀子縁の下にいた、目がきらっと光って、私は飛び上がった。
「わ」
「わお」
私とその子は同時に声を上げた。
「ど、どうして、こんなところに、あなたは?」
「あー、ご、ごめんなさい、ここで、休憩していて」
その子は、簀子縁の高い縁の下から、ごほごほと喉を押さえて出て来た。
「まがりを食べていたので、むせた。久理子と言います。うるさい上官にさんざん、イジメられ・・いえ、仕事を押し付けられて困っていたから、ここで休憩していたのです。あなたも、何かあったでしょうね、分かります。昼からいたので」
「じゃあ、私が来た時からここに?」
「はい」
何時間もここにいたのか。
よっぽど上司が嫌だったのね・・・
「一応、私のほうが先輩ですし、何でも聞いてください」
久理子は唐衣の裾をぱんぱんとハタく。体も顔も蜘蛛の巣でゴミだらけだ。
「私は今日から来た椎子です。これ、どうぞ」
私は部屋にあった持参の竹の水筒を差した。
「ありがとう。宮中では水も貴重ですよ。あなたは賢い。これからは、飲み水も貴重になります」
「そう?分かったわ」
「悪口は気にしないほうが良いですよ。ここでは日常茶飯事ですから。失敗をしたら、上から追い落とされるから、皆、必死で、牽制し合ってるのです。いつか、自分の失敗を誰かになすりつけようと思って」
都の気温の高さのせいか、久理子は水筒を手離すことなく、また水をぐびぐびと飲む。
「上を目指さなければ、追い落とされる対象にはならないですよ。でも、あなたは帝の寵愛の桜の人の妹君ですね?それは皆からやっかまれても当然ですね」
桜の君ってのは、姉のこと。
帝が桜の下で出会った姉のことをそう呼ぶので、私達家族しか知らない名だと思ってた。
(それまで、後宮にダダ漏れだったのね。久理子殿みたいな下の者まで噂が広がっているっていうことは、そりゃ、皆が知ってて、険悪な目で見てくるわけね)
都では噂が一日千里を走るという。帝の密やかな想いと思っていたけど、あたり一帯、筒抜けとは、秘密も何もあったものじゃない。
「姉のことは誤解よ。姉は入内しようなんて思ってない。姉が入内を企んでいるとか、寵愛を得るために渋っているとか、それはデタラメよ。結婚なんてないかもしれないわ、姉は嫌がっているもの」
「そうなの?」
「そうよ。だから私がここに呼び出されて・・・私だって、なぜここに来たのか分からないもの。姉やうちの大納言家との、さまざまな見えない力によってとしか」
「なら、私と同じね。私は地方豪族の娘で、朝貢の証に私が差し出されたんです。年季が明けたら、里に帰って、結婚出来るって。それまでの辛抱」
「じゃあ、あなたも何かの代わりに?人質ってこと?」
「まあ、そういうものですね。ここって、皆事情はそれなりにありますが、まあ、皆、似たような者ですよ。いつか年季が明ける、それまでの辛抱って思ってるんじゃないですかね。私はそれまで、ここで都見物して、のらりくらりやろうと思ってるんで」
後宮はさまざまな者の寄せ集めで、任期が来たら終わり。
(そう考えたら、私も気が楽だ。久理子殿の言うとおり、好きにやればいい)
考え方もやろうとしていることも、私と似ているものがある久理子に私は馬が合うものを感じた。
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