女官勤め

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女官勤め

 私は椎子(しいこ)。  大納言藤原貞見(さだみ)を父に持つ私は、何でも思い通りの身分だ。  私というのは、好奇心が旺盛で、通り名やあだ名は、知りたがりの椎と言われ、椎の君と言われている姫君。  そろそろ婿をと言われているけれど、私は物語の登場人物である若竹の君が好き。  私の生きている時代は、貴族が大半の国民を統治し、帝という位の人が京の都に住み、絶対的に崇めらえていた。  女の人は、家で子供を育て、家事をするのが当然で、男は外で働きに出る。  女はたいてい、夫や家の主の言いなりで、結婚すら好きにできないのが当然だった。  女にとっては窮屈な生活。  おまけに、女は髪が長く、長い裾の上衣を着て、だぼだぼの袴という下履きを履き、自由になんて動けない暮らし。貴族の娘たちは、皆、そう。   外に出たら、男性に遭うからと言われて、気軽に外へ出ることも許されない。  その時代、女は男の前に、気軽に姿を見せたりしなかった。特に、貴族の娘は。  一日中家にいて、重たい髪と服を体にのせ、じーっとしていなきゃいけない。それって、苦痛。  男性が近くを通りかかったら、姿を見せちゃいけないし、人が出入りするのにも、気を使わなくっちゃいけないし。  そんな生活で、私の唯一の癒しと言えば、宮中の女性作家が書いた物語を読むことだった。  「坂田中将物語」  「如月尚侍日記」  その時代、内裏ではお上の妃が複数いて、その妃に使える有能な女房たちがいた。  物語はそういう女流作家が書いた作品。  私は彼女らが書いた物語を読むのが楽しみだった。  子供の時から、物語の冊子を見つけては、西松、お付きの侍女に持って来させて、いっしょに眺めていた。その時代のよく出来た物語は、綺麗な挿絵がついていて、侍女の西松とふたりで、ため息をついたものだった。 「え、私が、内裏へ?」  だから、その日、大臣の父から、帝の妃たちがおわす後宮へ勤めに出る話を聞いても、真っ先に思ったことは、物語がいっぱい収集されている内裏へ行ける!ということだった。
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