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ここに来るのは久しぶりだと、活留は思った。まあ、どうせいつも通り税金泥棒やんて罵られるのが関の山だろうが。
「なんで呼ばれているか分かっているかねってなんでスマホ覗いているんだよ。私は君のボスだよ。君の主人みたいなものだよ」
活留は目を落とした視線を署長へ向き直させる。
「じゃあ、伊佐鷺署長の主人は新宿にあるM and Mのジュリ ちゃんのことを奥さんに……」
「だわーやめろ。なんで、お前がそんなこと知ってるんだ。脅しはやめろ!! そんなんで屈しないからな。いいか。今回呼び出した件はお前の勤務態度だ‼︎ 捜査も調書も取らない。お前みたいな暇人ほっとくほど刑事課も人材ないんだ。いいから仕事しろ。舌打ちするな‼︎ 舐めんな。今月事件の一つでも取り掛からないと懲戒免職にしてやるからな。今回は本気だぞ」
伊佐鷺署長が次々にトロフィーやら事務用品を投げつけて来たため、活留は廊下へと逃げ出す。
「今回は本気だな。そろそろ捜査するか」
スマホのニュースにあった人気都市伝説ブロガー自殺の記事を見ながら、目を細める。
「ッで、なんでこんなとこにいるの?」
活留の声が部屋の中で響く。
木村はコーヒーカップに香り高い黒い液体をそぞぎこみ、それはそれは朝の挨拶でもしてきて、まるでズボラな同居人のために、朝の支度をしているようだった。
「いや〜俺が担当してた事件、お前のおかげで早期解決してな。まあお前の手伝いでもしようかなと。電気ついててよかったよ。美味しいコーヒーでも飲まないか」
やれやれと活留が息をつく。それから、構わず部屋の中を眺め見る。若月のぼるの部屋。近く自殺した男の部屋だ。フリーライターらしく書斎は英字や写真集やらおよそ一般的にはないカテゴリーの並びだ。
活留は『隠屏というペルソナ』そんな本を手に取り、横から木村からコーヒーを受け取る。
「なんで、また自殺者の家なんか。事件性はないだろ」
「さてね。ちょっとね。端末で詳細を見た時、気になってね」
「変わってるな。お前は」
木村が呆れたかのような表情をしている。そこで活留は反論もしなかった。
「かもね」
それからデスクに移り、メモ用紙、付箋の数々を手にする。
「なんか分かりそうか?」
木村が声をかけるが、活留は無視して、一枚のメモ用紙で動きが止まる。
「恐らくだが、他殺だ」
「はっ!?」
木村はコーヒーを吹き出さなかった。
「そして、その前に死んだとされている心臓発作で亡くなったとされている若月万斉、彼は生きている」
「ぶっば‼︎」
木村はコーヒーを吹き出した。
「死んだ人間がどうやって生き返るんだよ。だいたいこいつが殺される理由がわからない」
「知ってしまったからだろう」活留はメモ用紙にあった、偽装事件というメモをひらひらとつまむ。
「さて、急ごう」
「どこへ?」
木村が聞き返す。そこで活留は笑う。
「万歳を発見しに」
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