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罠
沢田とんこは戸締りをしっかりした。帰ってきたところ夕飯にと弁当を三つ頼んでしまった。今日は肉汁垂れるステーキ、サクサクの衣のトンカツ、唾液が刺激される酢豚のあんかけ、いずれにしても大盛りで頼んでしまった。ネット配信の動画投稿をBGMにして、胃袋にどんどんと放り込まれる。しかし、その顔にはこれ以上ないくらいの笑みが溢れていて、綺麗な箸使いで米一粒すら残さなかった。無理やり空箱をくしゃっとして、ゴミ箱に押し込める。
爪楊枝で歯の隙間を掃除している時だった。インターホンが鳴る。もう夜の10時、こんな時間に営業関係の周りは考えられない。
とんこはガニ股でドアを豪勢に開ける。
誰もいない。
木造二階建てのボロアパートはかえってとんこが開け放ったドアの音の方が異質だった。そして鍵を再び閉めたとんこが振り返ったとき、ベランダから若月万斉は入ってきた。
「罠を仕掛けただと‼︎」
木村はキリキリとハンドルを切りながら法定速度を超える運転で、街中を走る。
「若月万斉は自分の情報を嗅ぎつけた人を襲っている。そりゃあ死んだ人間が生きていると分かっている時点で怪しいと思われるからな。そこであえて餌を蒔いといた。沢田とんこにこの件を調べている痕跡を残した」
「バカな‼︎ 死の偽装や情報なんてただの一介人が手に入るもんじゃないぞ」
「まあね。けどさ、そんな説明よりも速くとんこさんの家つかないかなぁ。取り返しつかなくなるよ」
「うるせえ‼︎」
木村は道路をなんども曲がりながら木村とんこの木造アパート前にたどり着く。
「ほら着いたぞ‼︎ 急げ」
急いでアパートに入ると、木村は足を止めた。とんこが馬乗りになって失神した若月万斉を殴っているのである。
あとから入ってきた活留がとんこをすかさず止める。
「とんこさんそれ以上やったら死んじゃいます」
とんこは目が血走ってなんども拳を振り下ろす。
「ほら木村さんも止まってないで、引き離すの手伝ってよ」
若月万斉は脳挫傷を負ったが、警察署に引き渡された。
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