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解決
署内自販機前で壁を背にしていた木村は、活留を見つけると駆け寄る。
「やり方はあれでも、お手柄だったな。お前。これで相手から自白させれば殺害手口も死の偽装も解明される」
活留は引っ付いてくる木村は放っておき、廊下を歩いていく。確かに、若月万斉が見つかった以上は共犯者の身元が割れるのは時間の問題だろう。
しかし、活留には、それは、嫌なことだった。
「おい、刑事課は通り過ぎたぞ。そこの先は」
活留は前に通った重厚な扉を開く。
「なんだね。ノックもせずに」
伊佐鷺署長は無礼な態度に怒りもしなかった。声色は沈み、窓の一点を眺め見ている。
「共犯者は署長ですよね」
そう言った活留の肩を、木村がつかむ。
「まさか、お前そんなこと」
伊佐鷺署長は椅子に座りこんで黙っている。
「死の偽装なんて警察ならなんとかなる必要なものは揃う。危険な薬物も一通り、自殺者に服用させることさえできれば、あるいは一時的に仮死状態にしたらり、あなただったら証拠品から盗用しても誤魔化せるだろう」
「なんで、私を疑った」
初めて伊佐鷺署長は活留を見た。
「人の情報を漁るのが好きなもので。若月万斉はあんたの隠し子だった。そこから興味が沸いて。調べていくと素行がだいぶ悪かったようですね。彼の経歴を見ると、母親が亡くなってから親戚をたらい回し、あなた自身も知らなかったでしょうね。あなたは情が深い、彼を知って同情して庇いましたか」
伊佐鷺署長の唇はひび割れていた。枯れた声で。
「息子は繁華街で殺人を犯してね。その時にだ。彼の出征記録見ていて、覚えがあった女性がいてね、こんな偽装工作を思いついたのは」
木村は泣いていた。伊佐鷺署長の肩を揺さぶる。
「だとしても、だ。嘘だ。署長‼︎ 嘘だと言ってくれ」
活留は続ける。
「俺を刑事課から外したかった時点であんたの覚悟は伝わってきました。変な事件に関心を持つ俺を遠ざけたかったのでしょう。万歳は生きている限り、俺の捜査の関心になる。今までなんだかんだいって俺を刑事に止めていたあなたが俺ののクビを切ろうとした」
「余計に不審だったか」
伊佐鷺署長は笑う。
「いえ、それほどまでにあなたには大事なものを守りたかったのでしょう」
「間違いだったな」
「間違わない人間はいません」
伊佐鷺署長はまた笑って立ち上がって、扉まで歩いていく。
「さあ、行こうか」
伊佐鷺署長の顔はようやく晴々としていた。
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