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始まり
ピッピッピッ。
ピー。
脈拍停止。
11時57分。若槻万歳死亡。
死因不明。二十三の年齢にして心肺停止の不審死。殺人事件の容疑者だが、当人死亡のため捜査打ち切り。
半月後、彼方のぼるはノートパソコンに向かってキーボードを打ち込んでいる。がしかし突如としてその指が止まり、カレンダーの〆切りマークに目をやり、大きな欠伸をする。目をしばしば動かしたあと、カップに注がれたコーヒをひと啜りして、安堵の息を漏らす。携帯の着信履歴を確認して、耳に当てて朗らかな笑を浮かべる。若月のぼるの視線は窓の外をじっと見ていた。カーテンを開けて開けた窓の外の数十メートル下の駐車場へ落下した。
若月のぼる、35才。頭蓋骨陥没および複雑骨折により死亡。飛び降り自殺だと思われる。
日陰活留は唇に指を当てて眉根を寄せる。周りはスーツ姿の、しかし、ここが民間企業というわけでもなく、ごくありふれた公務員の、スーツ姿の同僚たちは日陰に構うことはなかった。
ただ同僚のの木村だけは別で、日陰に「ちょっと意見を聞きたいんだが」と紙の束を寄越す。日陰はページをゆっくり吟味したり、軽く飛ばしたりして、紙の束を机に置く。
「っで、どう思う?」
木村は工作品の出来栄えを聞くような口調で尋ねる。
「無計画な殺人事件だね。よくあるんじゃない。ちらほらとそこいらで」
「誰がお前の感想を聞いた。いや、感想なのは感想だとして、そうだなあ、なんかあるだろう。刑事としての勘というか、こいつが怪しいとか。ちなみに俺は不倫相手の」
「よくある金銭関連だと思うよ。親戚の昴っていう人がクロだと」
「だと思ったぜ。さっそく事情聴取にかけてくる」
木村は颯爽と出かけて行った。
コツコツと靴音を響かせて、婦警の沢田とん子が近づいていくる。細い路地など出入り口を塞いでしまうほどの体格で、細い男なら威圧される雰囲気がある。
「活留さん、伊佐鷺署長が呼んでます」
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