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4
浜田は管理責任を追求されることを恐れた。
横領は満子の単独犯だ。
しかし、自分が二重チェックもせずに承認印を押していたことは間違いない。
架空の不動産や貸し倒れ損失などを、在るものとして通すしかないと考えた。
たとえ横領が発覚せずとも、身売りされる側の社員の扱いはシビアだ。部長以上への昇格は望めないどころか、降格も十分あり得る。
もちろん横領が発覚すれば、懲戒解雇と懲役が待っている。
「息子がまだ中学生でね。まだ学費がかかる。今路頭に迷うわけにはいかないんだ……。架空の不動産や貸し倒れ損失は在るものとして通そう。お互いが口裏を合わせれば大丈夫だ」
満子にとっては渡に船の話だった。
「わかりました。部長を巻き込んでしまってすみません」
ほっとして、もう一度頭を下げた。
そのとき、浜田がぐいっと身を乗りだした。
「田所課長、いや満子さん、一つ、頼みを聞いて欲しい」
「え? はい……」
浜田は両手を伸ばし、満子の手を強く握った。
満子が驚いて身を固くする。
「僕はあなたをずっと好きだった」
突然の告白に満子が言葉を失う。
浜田を異性として意識したことなどなく、むしろ生理的に苦手だった。
「だからその……不倫にはなるけど……」
浜田の手汗で満子の手の甲が湿る。
嫌悪感が鳥肌になり背筋がぞわりとした。
それでも受け入れるしかなかった。
「部長、ありがとうございます。そんなふうに思っていただけて」
二人はこの夜、男女の関係になった。
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