7

1/2
前へ
/10ページ
次へ

7

「ヴオー……ヴオー……」  玄関の方からブタの鳴き声のような低い息づかいが聞こえる。  なに?  満子が後ろを振り返ると、大きな熊がのっそりのっそりと家のなかに入ってきていた。  目をぎょっと丸くし口を「あ」の形に開くも声が出ない。  肩と首を左右に揺らしながら熊が近づいてくる。  廊下の横幅一杯に体躯を揺らし、壁に擦れた体毛がカサカサと乾いた音を立てる。  どうしよう……どうしよう……  威圧感に気持ちが焦く。膝ががくがく震えるが脚は石膏で固めたように動かない。  自分で自分に落ち着けと言い聞かせ、深く深呼吸をする。  そうだ!  地下の倉庫に隠れれば。  倉庫に降りる階段は中扉の向こうだ。全力で走れば行ける。  デニムのポケットを指先でまさぐる。鍵がない。 「あ……」  浜田の死体を運び入れたあと倉庫に鍵を掛けたが、血塗れのワンピースのポケットに入れたことを思い出した。その服は暖炉に突っ込んで燃やしてしまった。  背中が冷や汗でびっしょり濡れ、脇の下を汗が伝う。  近づいてくる熊と目が合った。 「グルルル……」  唸りながら黒い小さな目でじっと満子を見ている。  光を向けたら逃げてくれるかも。  震える指先でスマホのライトを点け強力な光を向けた。 「グオオーッ!」  熊が地を這うような唸り声を発し後脚で立ち上がる。  前脚が天井に届きそうな大きさに圧倒され後ずさる。  熊はドスンと再び四つ這いになり、重低音を響かせながら満子に突進してきた。  足が動かない。  目前に迫った瞬間ハッとして、柵に足をかけるとよじのぼり斜面に身を投げた。  直後、熊が柵をバキバキとへし折り斜面に転げ落ちた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加