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「ヴオー……ヴオー……」
玄関の方からブタの鳴き声のような低い息づかいが聞こえる。
なに?
満子が後ろを振り返ると、大きな熊がのっそりのっそりと家のなかに入ってきていた。
目をぎょっと丸くし口を「あ」の形に開くも声が出ない。
肩と首を左右に揺らしながら熊が近づいてくる。
廊下の横幅一杯に体躯を揺らし、壁に擦れた体毛がカサカサと乾いた音を立てる。
どうしよう……どうしよう……
威圧感に気持ちが焦く。膝ががくがく震えるが脚は石膏で固めたように動かない。
自分で自分に落ち着けと言い聞かせ、深く深呼吸をする。
そうだ!
地下の倉庫に隠れれば。
倉庫に降りる階段は中扉の向こうだ。全力で走れば行ける。
デニムのポケットを指先でまさぐる。鍵がない。
「あ……」
浜田の死体を運び入れたあと倉庫に鍵を掛けたが、血塗れのワンピースのポケットに入れたことを思い出した。その服は暖炉に突っ込んで燃やしてしまった。
背中が冷や汗でびっしょり濡れ、脇の下を汗が伝う。
近づいてくる熊と目が合った。
「グルルル……」
唸りながら黒い小さな目でじっと満子を見ている。
光を向けたら逃げてくれるかも。
震える指先でスマホのライトを点け強力な光を向けた。
「グオオーッ!」
熊が地を這うような唸り声を発し後脚で立ち上がる。
前脚が天井に届きそうな大きさに圧倒され後ずさる。
熊はドスンと再び四つ這いになり、重低音を響かせながら満子に突進してきた。
足が動かない。
目前に迫った瞬間ハッとして、柵に足をかけるとよじのぼり斜面に身を投げた。
直後、熊が柵をバキバキとへし折り斜面に転げ落ちた。
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