100人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ
1-4
今、夏樹達と話している。彼らから聞かされた事実に、今回のことは俺の勘違いだと分かった。イケメン会社員は桜木さんとは仲のいい友人同士で、ふざけて遊んでいたということだった。グレーのスーツ姿の人が言うには、いつものことらしい。
イケメン会社員の名前は、早瀬裕理という。30歳だ。黒崎製菓の営業企画部マーケティング推進室の室長だということだ。桜木さんが参加しているインターンシップの部署だ。早瀬と同じチームで、上司と部下という関係でもあるそうだ。
グレーのスーツ姿の人は黒崎といって、早瀬の上司の一人だ。常務取締役と営業企画部長を兼任しているそうだ。おまけに、夏樹のパートナーだと判明した。
夏樹が俺に怒りを収めるように言った。説明されても、俺の憧れの桜木さんにやっていたことは許せないと思った。
桜木さんには恋人がいる。相手は夏樹のお兄さんだ。早瀬もそれを知っているそうだ。夏樹が俺に言った。
「早瀬さんはいい人なんだよ。世話好きだし。だから、聡太郎君のことに構っていたんだと思う。俺のお兄ちゃんが恋人だっていうことを、早瀬さんも知っているんだよ」
それを聞き、納得した。早瀬が苦笑いをしている。さっきのような意地悪そうな笑顔ではない。
「そうだったんだ。すみませんでした。誤解してしまって」
「いいんだよ。僕が紛らわしいことをしたんだから」
「お店にも来て下さったのに……」
「気にしないでくれないか?これからも通うからね」
「ありがとうございますっ」
早瀬から爽やかな笑顔を向けられた。そして俺のことを気遣うようにして、顔を覗き込んできた。今度はまた意地悪そうな笑顔をしている。なんだか怪しい人だと感じた。
スムーズに話が終わったところで、みんなが店内へ向かって行った。なぜか早瀬は俺の近くで立ったままだ。
「どうされたんですか?」
「みんなの前で謝らせてしまって、悪いことをしたよ。そもそも僕が誤解を招くことをしてしまったし」
「いいですよ。モップを突き付けたのは失礼だったし」
すでにモップが渇き気味だ。バケツの水に突っ込んだ後、絞ろうとした。でも、足で装置を踏みつけているのに、なかなか絞れない。
「手伝うよ」
「いいです」
「いいから。貸して」
早瀬がモップを取った時に、お互いの手が重なった。俺よりも大きな手だ。華奢な体型の自分にとっては憧れる大きさだ。すると、早瀬が俺の手を握って、指先や手の甲を見始めた。
「な、何ですか!?」
「少し荒れているね。元々は綺麗なのに勿体ないよ。皮膚科に行ってみた?」
「行ってないです。男だし、気にならないですから」
「痛むだろう?」
「ええー?」
何が起きているのだろう。早瀬が俺の指先にキスをしている。驚きで、心臓の鼓動が跳ね上がった。すぐに手を振り払えばいいのに、出来ないでいる。こういう事をされたのが初めてで、どう反応したらいいのか分からないからだ。
最初のコメントを投稿しよう!