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20時。
ミドリカワ楽器店では、閉店時間を迎えた。同時にバイトの終了時間でもある。桜木さんは帰った後だ。俺のことを心配していたけれど、インターンシップの初日で疲れているだろうし、恋人の伊吹さんにヴァイオリンの話をしたいと思うだろうから、俺のことは置いて、帰ってもらった。
店内では、早瀬がオーナーと会話をしている。食事に行きたくないとは言えなかった。桜木さんに迷惑を掛けたくない。それにモップ事件のことも、オーナーにバラされたくない。バイトを辞めさせられなくても、謝らせてしまうし、心配をかけてしまう。
ショーウィンドウに映っている自分の顔を見ると、引きつった笑顔をしていた。その反対に、早瀬は微笑んでいる。怪しい男に見えないところが怖い。
後片付けを終えると、オーナーから声をかけられた。
「悠人君、良かったね。早瀬君とは音楽の好みが合うはずだよ。ご馳走になっておいで」
「さあ、行こうか」
「はい」
早瀬から促されて自動ドアを出ようとすると、慌てていたから、ドアに肩をぶつけてしまった。
「いたっ」
「大丈夫?」
「いてて……、平気です」
「そんなに警戒しなくてもいいよ」
「誤解しないでください。そそっかしいのは、いつものことなので」
「へえ」
早瀬から何か食べたいものはあるかと聞かれながら、店を出た。
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