1-6

1/1

100人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ

1-6

 20時。  ミドリカワ楽器店では、閉店時間を迎えた。同時にバイトの終了時間でもある。桜木さんは帰った後だ。俺のことを心配していたけれど、インターンシップの初日で疲れているだろうし、恋人の伊吹さんにヴァイオリンの話をしたいと思うだろうから、俺のことは置いて、帰ってもらった。  店内では、早瀬がオーナーと会話をしている。食事に行きたくないとは言えなかった。桜木さんに迷惑を掛けたくない。それにモップ事件のことも、オーナーにバラされたくない。バイトを辞めさせられなくても、謝らせてしまうし、心配をかけてしまう。  ショーウィンドウに映っている自分の顔を見ると、引きつった笑顔をしていた。その反対に、早瀬は微笑んでいる。怪しい男に見えないところが怖い。  後片付けを終えると、オーナーから声をかけられた。 「悠人君、良かったね。早瀬君とは音楽の好みが合うはずだよ。ご馳走になっておいで」 「さあ、行こうか」 「はい」  早瀬から促されて自動ドアを出ようとすると、慌てていたから、ドアに肩をぶつけてしまった。 「いたっ」 「大丈夫?」 「いてて……、平気です」 「そんなに警戒しなくてもいいよ」 「誤解しないでください。そそっかしいのは、いつものことなので」 「へえ」  早瀬から何か食べたいものはあるかと聞かれながら、店を出た。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

100人が本棚に入れています
本棚に追加