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20時15分。
駅の近くを早瀬と歩いている。金曜日ということもあり、この辺りは混雑している。俺たちの近くには、ほろ酔い状態で、大声で会話をしている団体がいた。彼らの人波が、信号待ちをしている俺の肩に当たった。
「こっちにおいで」
「あ、はい」
さり気なく早瀬から肩を抱かれて引き寄せられた。何かされたわけではないのに、勝手に体が強張った。すると、頭の上から笑い声が聞こえた。 思わず見上げると、笑顔を向けられていた。意地悪そうでも、爽やかそうでもない。ごく普通といった感じだった。この方が良いと思った。
「早瀬さんって、そうやって笑った方がいいですよ」
「そう?普通にしているつもりだよ」
「今までは愛想笑いっていうか、そんな風に見えました……。社会人だからそうなるだろうけど。普通のお兄さんに見えます」
「へえ」
「そんなに面白いですか?」
「面白いよ。即座に反応が返ってくるからね。とても可愛いよ」
「か、可愛い!?」
「いけない?」
「い、いけなくはないですけど……、男だし。嬉しくないっていうか……」
どうしてこんなに動揺しているのだろう。 学校の先輩から言われていた言葉だ。大した意味はないのに。
「さあ、行こうか。鉄板焼きの店を予約したよ」
「それ、好きなんだ!あ、すみません」
思わず声を上げてしまった。慌てて謝ると、頭をポンポンと叩かれた。
「元気があっていいよ」
「はい……」
急に肩に置かれた手の重みが消えた。また近づかれたくないから、距離を取って歩き始めた。その様子を見て、楽しそうに笑われてしまった。やっぱり変な男にしか見えない。
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