ヤクザの奥様と半グレ

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「成田さん?!!」  鈍い音を立てて体が地面に倒れた。 意識が飛んだようで、くたりとしている。 「い、いきなり何をするんだぁっ!!」  声を荒げたことなどない猫田が赤髪の男に叫んだ。  一体、何が起きたのか。  赤髪の男をみて、思わず息を呑んだ。  スラリと伸びた脚は、天を蹴り上げるかのように上段蹴りの構えでいた。  この構え、空手?  猫田が成田と私の前へ出て来たが、青年の構えに怖じけてしまっていた。  「猫田さん!尾崎さんがいつも言う“制圧”です!傷付けずに穏便にいきましょう!」 「む、無理ですよぉ・・・。この男、尾崎さんと同じで“フルコン”です。一撃必殺喰らったら最悪、死にますよぉ?!」 「でも、いつも尾崎さんが言ってるじゃないですか。空手は寝技がないから、それに対抗する術が無いのだと! 押さえ込んでしまえば、こっちのものですよ! 柔道は戦闘術でも優れています!自信持って!」  そんな簡単に言わないでぇ〜とふかふかなほっぺを揺らした。  それより、この子たちは本当に半グレなのだろうか?もしかして、この指輪を狙っているんじゃ。  若い子たちまでこんなことに携わっているのだとしたら、とんでもないことだ。  「やっぱりモヤシはモヤシだったか。 で、そこのブタちゃんが今度は相手??」  涼しい顔して笑う男は、前髪をかき上げた。 ニヤニヤとしている仲間たちはそれを傍観するだけらしい。 いや、壁を作って人の目から遠ざけさせている。 やっぱり手馴れているようだ。 「素直にお金、出せばこんなことしなくていーのにさ。」  枻くんとあまり変わらない年齢の子がこんなことしている。平然としているのが悲しい。  成田の顎が赤青黒くなっている。 前髪で隠れていた瞳がうっすらと開かれたのが見え、意識を取り戻したのを確認できてホッとした。 「こんなこと、ご家族が知ったら悲しむわよ。 他人を平然と傷付けて、良心は傷んだりしないの?」  枻くんと彼を重ねてしまうと、つい説教臭くなってしまう。それもこれも、自分がこれから親になるからなのか、親側の意見になってしまうのかもしれない。  男は私を見下ろしてはつまんなそうに口角を下げた。 「ゲームみたいなもんだよ。暇つぶし。 大人になっても、毎日同じことの繰り返しを歩むくらいなら、刺激がある毎日を送りたいでしょ。 お金があればその分刺激は増えるし、人を甚振(いたぶ)るだけでいろんな反応も貰える。 それって、スマホの中では味わえない感覚だよね」 「そうそう。ダッセェ大人になりたくねぇし。 クソみたいな大人ぶっ殺して、楽してお金稼ぐことに良心は痛まねぇよなぁ」  拳を手の平に包むように立ちはだかったのは、鬼剃り男だ。 三白眼寄りの瞳なのにやたら目が大きく見える。
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