奥様は誘拐されました

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「姐さん!この服とか絶対良いと思う。男の子でも女の子でも着られるよね」  癖っ毛の金髪をカラフルなヘアピンで留め、深緑色の瞳がキラキラと輝かせて拓は言った。  普段の彼は他人に関心を寄せることもなく、自分のオシャレにこだわりをみせていたのだが、ここ最近、膨らみ始めた私に興味があるらしい。   お腹の中にいる赤ちゃんの面倒を見ることになるはずだと、尾崎さんが彼らに言ったことが始まりだろう。  デニム生地で裁縫されたトップスは、ベビーサイズに作られているものの、まだ生まれてまも無い子には不向きだった。 拓くんは成長した時のことを考えていたのか、“この時期にはこのサイズだろう”という季節感とサイズ感を必死に考えて選んでくれたようで、その気持ちがとても嬉しかった。 なにより、他人に興味がなかった彼がこんなにもお腹の中にいる子のために、何かしてあげようとしてくれている“お兄さん感”がとても嬉しく思える。  以前よりグッと仲良くなれたし、私のことを“お姉さん”のように慕ってくれる。 だから頑張らないとと思うし、彼らにとってより良い日常を送れるように気配りをしたいと思うのだが、青柳組という世界のお陰なのか、普通の学生たちよりも大人びている。 申し訳ないと思いつつも、それが有難く感じるここ最近でもある。  選んでくれた服を手に取り、着せてあげてねと言うと、「仕方ないなぁ」なんて嬉しそうにニヤけていた。  ゆるりとしたシャツの下に、カラフルなレイヤードを入れて簡単には真似出来ないオシャレさが醸し出されている。 拓くんのコーデは洗練されているから、毎回見ていて飽きないし、モデルさんみたいだ。 私にもそんな着こなしが出来ればいいが、難しいことは出来ない。彼の才能なのだろう。 「姐さんは男の子と女の子どっちが欲しいんだ?」  襟足や前髪が長いオレンジ髪、細い目元や吊り上がった眉は太くて男らしい。  響くんはシンプルに黒のパーカーのセパレートを着て、シューズはブランド物を取り入れている。  響くんには悪いが、田舎のヤンキーを彷彿とさせる。なんてことを遠回しに言ったら、「それを目指してるんだよ」と満足そうにしていたのを聞いて首を傾げたことがある。 最近のオシャレがよく分からないなぁなんて思い始めたら、私はもうおばさんなのだろうか。  そんなことをぼんやり思い出していると、子供用品に夢中になっていた3人組の背中に立っていたら、目の前が見えなくなった。  なに?! そのまま誰かに体を抱き上げられ、素早く両手を拘束された。  結束バンドなのだろう、特有のカチカチという音がしたと思ったら、鼻と口を布で押さえつけられた。 「むっんーーっっ?!!」  息が出来ないっ!! 酸素が脳や肺、心臓に行かない。  視界と口や鼻を塞がれ、もがきたいのに手脚を拘束されていてどうにも出来ず、パニックになった。 お腹の中にいる赤ちゃんが脳裏に浮かび、必死に首を左右に振ったが、意識が遠のいていく。
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