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「?!!!」
妖艶で意味ありげな含み笑いを浮かべる渚から、拳銃を手渡され開いた唇が閉じれなかった。
「ど、いうこと?」
状況が飲み込めないでいると、先程までと少し違った様子で、拳銃を握らせた私の手を持ち上げ彼の左胸元へと誘導された。
いや、厳密に言うと左胸の心臓に照準を合わせられたのだ。
「必ずこの角度で顎はしっかり引いて、右手に左手を支えて腕をしっかり伸ばすのがコツだよ。衝撃で顔を傷付けないように、撃つ時は腹に力を込めておくといいかも」
「待って、ゲームだよね?」
「そう、ゲームだよ。乙葉が俺を信じているのかどうかを確かめられるゲーム。
それに、愛しい人から銃口を向けられながらセックスだなんて、興奮すると思わない?」
薄い唇をペロリと舌舐めずりした、狂気に似た含み笑いを浮かべる彼の異常さに震えた。
いつも何考えてるかわからないと思ってきたけど、今日も突然何を言い出すの?!!
「い、いつも突然変なこと言い出すけど、興奮できる気がしないよ?!」
「えぇ〜?俺はこんなにも滾ってるよ?
乙葉に銃口を向けられるなんて、初めてだから興奮してる。乙葉に殺される最後もいいなぁなんて」
「変なこと言わないでよ?!」
考えたくもない悍ましいことを彼が口にするものだから、つい強い口調になってしまった。
ヘラヘラと笑っていた渚の表情が俄かに揺らぐと、碧く澄んだ瞳を細めて、静かに唇を開く。
「大丈夫。信じて。
例え撃たれても死なないから。
痛いことには慣れてる。肉や骨、内臓を押し砕いていく快感は堪らないものだよ?
乙葉に与えられる痛みや辛さも快楽になるんだよ。
何をされても、必ず君を受け止めてあげられるからね」
どうしちゃったの、渚?
なんでそんなこと言うの?
私を信じてくれるゲームだと言ったけど、ゲームになんかなっていない。こんな至近距離じゃ簡単に撃ち抜いてしまう。
シリンダーに詰めていた弾を見た。
本物だったし、いつもとなんら変わらない様子だった。
ロシアンルーレットか何か?と思ったけど、そういうものでもなかった。
じゃあどうして彼の心臓を狙ってやれと言うのか。
本当に、ただ刺激が欲しいだけなのか?
大事なことはいつも私には言わない卑怯な彼。
だけど、私想いで優しい彼。
私に銃を持たせて、“刺激的なセックスを”と望んでいる。
『乙葉が俺を信じているのか確かめるゲームだよ』
違和感を覚えながら、震える手で拳銃をしっかり支えた。
銃の重心が安定したのを察したのか、彼は柔らかく口角を緩ませた。
「いい子。
俺を信じてさえいれば、怖くないよ」
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