ヤクザの奥様と半グレ

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「な、にが起きた、の?」  困惑しているのは権田だけではなく、発砲した本人もだったが。  渚は満足そうだったが、「刺激的なセックスをしよう」と言った。 なのに、情熱的で艶めいた声と愛撫で誘われたはずなのに、彼は何もせずに去って行った。 どういうこと???  掌が鉄を叩いた後のような痛みがジンジンと伝わってきた。 これが発砲したあとの反動なのかと、今更になって怖さが襲う。 良かった、渚に当たらなくて。相変わらず無茶なことをするのだから。 そして、これが彼の日常なのだと再認識した。  この痛みが、人の命を奪う。 渚がいる世界は、きっと暗くて冷たい世界なのだ。 『“ 乙葉は俺の太陽で、色なんだよ。君がいない世界なんて、生きてる意味なんてない”』 彼の言葉の意味は何度も、何度も私を強くさせる。  私の存在意義が、彼の生きる意味で道標だ。 怖く無いなんて嘘になるけれど、渚が私を迎えに来てくれる。そう信じているから、私は引金を引けた。 でも、もし渚が私に『人を殺せ』と言ってきたら、さっきみたいに引き金を引けるのかな。 そんな野暮なことを考えて、思わず口元が緩んだ。 「渚がそんなこと言わないことくらい分かってるのにね」  彼がどんな人なのか知っていることでしょう? 私をお姫様のように扱う彼が、人を殺せだなんて指示するわけない。 むしろ、自分が死んでも構わないと思っている人だから、私が引き金を引くよりも速く、彼が手を下すのでしょう。  だから怖いのだ。 自己犠牲を厭わない彼だから。  膝掛けをサッと折り畳み、庭園から聞こえてくる怒号を見に障子を開いた。  2月の冬空の下、900坪ある敷地内で黒服の男たちが集まりだしていたのは、どうやら侵入者がいたからだろう。  ここは中庭だが、入り組んでいる為侵入者が入りずらいはずだ。むしろ、監視下の中どうやって入って来れたのかわからない。  引戸を引き、床暖が敷かれた廊下へ踏み出る。 縁側の前に2人、組員が立って辺りを見渡していた。 「姐さん」  静かに引戸を引いた音に気がついた1人の組員が私を見上げた。  濡れた鳥羽色のような、紫混じりの黒髪。サイドバングがアシンメトリーで左耳に朱色の組紐でできたピアスを下げた彼は、ほんのり鼻が赤くなっていた。 「身体に障るよ。今、気温1℃だし、これから更に下がるって。安心して寝ててよ。僕たちが監視しておくからさ」
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