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「枻くん・・・」
その隣に立っていた枻くんの兄貴分に当たる深川さんが控えめに口元を緩めた。
「姐さんがチャカでぶっ放したんだって〜?
侵入者の左肩ぶち抜いたってよ。良い腕してんねぇ〜」
オールバックがよく似合う、その辺にいそうな陽気なおじさまだ。ただ、鼻が変形していて、左の小鼻が潰れてしまっている。
昔、他の組に属していた彼は脱退するためのゲームと称した鉄球を顔面で受け止める儀式があったらしい。
頭蓋骨が粉砕したものの、なんとか今の顔に再構築され、その名残りで鼻は潰れたままなのだという。
上手く想像できないし、想像するだけで恐ろしい儀式だ。組を抜けるためには、顔を破壊する必要があるほど、手足を罪に晒してきたその罰なのだとか。
指を斬り落とすことは聞いたことがあったが、顔面を潰す組があること、暴力団がいかに残酷なのかを知った。
なんだか、青柳組がいかに優しい組織なのか納得し始めている。
手柄を立てたらしっかり恩恵を与え、衣食住を提供してあげられるほど財力に富んでいる。
「深川さん、お疲れ様です。
もしかして致命傷でしょうか」
いくらゲームだと思って引いた引き金だとしても、誰かを撃ち抜くつもりはなかった。
「そんな顔しなさるな、姐さんや。
弾は抜けてるからな。動脈も掠ってないようだから安心しな。自分の腕に感謝だ」
「姐さん、よくこの暗闇の中で命中させることできたね」
なぜか褒めてくれる2人だが、恐ろしさで震えていることに2人は気がついてないようだ。
「た、たまたまなの。渚がゲームだと言うから、その指示通りやっただけで。まさか、渚の背後に人がいたなんて」
深川と枻は顔を見合わせ、口角を歪ませた。
「渚さんらしい」
「本当、憎たらしいほどに。てか、その話だと姐さんが渚さんに銃口向けてたことになるんだけど、何?夫婦喧嘩?」
「違うよ!その、スキンシップ・・・で」
なんて説明したら良いのか、恥ずかしくて彼らから視線を逸らした。
「なんにせよ、姐さんはお腹の子のためにも早く寝な。胎教にしては激しすぎるからな」
庭園の向こうから苦痛の声が聞こえてきて、そっと引戸を閉めた。
唇から漏れる白い息を楽しむ2人をガラス戸越しに見て、思わず頬が緩む。
こんな日々を送っている私ですが、毎日が刺激的で飽きないです。
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