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「どっちが生まれても嬉しいんだよ」
伝えたかった言葉は出せずに意識を手放してしまった。
『野木くん!』
学生服である白のサマーベストを着た、プラチナブロンドの野木くんが目の前に立っていた。
陶器のように白い肌、透き通るような碧い瞳は、手元にあった本に視線を落としていた。
その碧い瞳がこちらを捉えると、柔らかく私を見つめて微笑む。
放課後の図書室で、お行儀悪く出窓の上に腰掛けていた彼は、お上品に「どうしたの?」と言うのだ。
『なんで学生服着てるの?』
私たち、もうアラサーなのに。
そう言いたかったのに、魔法でもかかっているかのように唇は動かなかった。
目の前にいる野木くんは目を丸くして、可笑しそうに声を漏らした。
『なんでって、だって僕たちはまだ学生だから。それに、乙葉ちゃんだって制服だよ』
クスクスとお上品に笑う姿に、どこか懐かしさを覚えたのと同時に、心細くなった。
私の知っている渚は、こんなによそよそしかっただろうか?
乙葉ちゃんとか僕とか、まるで、高校生の時に戻ったみたいだ。
目の前にいる彼を改めて良く眺めると、足下は白いバレエシューズタイプの上履きだったし、スラックスも灰緑色のグレンチェックに緑色のネクタイをしていた。
母校の制服姿じゃないか。
渚が私を追いかけて転校してきて、1年経つ頃の姿だ。
これは夢?
私に「本気でいくから覚悟していてね」と宣言した頃くらい?
小難しそうな本は名言集だったが、スラリとした白い手で本を閉じて、窓枠から腰を上げた彼が目の前に立った。
見上げると、彼は眉根を下げて言う。
『怖い?』
ドキッとした。
見透かすような、透き通った碧い瞳は目力も強くて、私の心が分かると言っているようで。
怖くないよ。だって、私は渚を知っているから。
口から出たのは「ちょっと怖いかも」だった。
違う!!怖くなんかないよ!!
必死の叫び声は虚しくも声にならず、彼には届かない。
碧い瞳が闇を含んで、悲しみに揺れたのを感じた。
『・・・そうだよね。うん、ごめんね、乙葉ちゃん』
目の前にいる彼を傷付けたことを私は気付いた。
なのに、どうしてだろう。
私の唇は接着剤でも塗りつけてしまったのだろうか。
酷く傷付いているというのに、どうして目の前にいる彼をフォローできないの?
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