ヤクザの奥様と半グレ

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 毅然とした態度で前を向いていたが、手の震えは止まらない。 ほんとに、ほんとに私って。  震える指先をもう片方の手で握り潰すように握り締めた。  自己嫌悪に浸りながら、このあとどうするべきかを考える。 もし、私ではなくここにいるのが“秋月先生だったら”。 とにかく情報を収集するために大人しくしていることだろう。 先生のことだ。隙を見て殺してしまうのかもしれないが、私には到底出来ない。  渚のように話術で人を説得させることも出来ないし、力技で捩じ伏せることも出来ない。 さて、どうしたものか。  震えが落ち着くのを待っていると、車は見覚えのあるホテルに停まった。 「ここって・・・?!」  高層階のタワーは波打つようなラインにデザインされ、全面ガラス張りで出来ている。 エントランスキャノピーに横付けされた車は、見覚えのあるドアマンが出迎えてくれた。 「青柳 乙葉さん。ここは貴女の縄張りですから、いつも通り振る舞えば危害を加えないことを約束します」  ピエロの仮面を取り外したのか、仮面によってくぐもった声がクリアになった。 「どういうことですか?」 「そのまんまの意味ですよ。 オレたちは貴女をのですから」  隣に座っていた男たちも覆面を外したようで、見えなかった素顔が見えた。  私を拉致したようには見えないビジュアルに驚く。  ヒョロリとした細い男は肌が陶器肌でくすみのない淡いグレーの瞳を持っていた。 黒髪は短く襟首は刈り上げられているが、前髪はセンター分けされていて目元が隠れるほどの長さだ。 右隣に座っていた筋肉質な男は童顔でチグハグに見える。  童顔なのに筋肉ムキムキで、スーツが体のラインを強調している。 同じグレーの瞳を持っているので、2人共カラコンをしているのだと気がつく。 茶がかった黒髪は天然パーマなのか、毛先がくるんとしていて愛らしさがある。  ドアマンが車の扉を開くと、前に座っていた男が降り、ヒョロリとした体躯の男も頭を下げて降りた。  ドアマンが車の天井縁を手で押さえ、頭がぶつからないよう配慮してくれている。  そして、先に降りたヒョロリとした爽やかな男性が私の手を引こうと手を差し出してくれた。 本当に、この人たちが鬼神龍組の一味なのか? 躊躇しつつも男の手を取り、車から降りた。 どうして“エデングランドホテル(うちのホテル)”に?!
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