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「渚さんが来る前にけりをつけさせてもらうぞ!」
刃渡20センチはあるだろうサバイバルナイフを枻くんが取り出し、顔の前に突き出した。
「え?!!だめ、だめだめだめ!!!まだ枻くん20歳でしょ?!だめだよ、危ない!!しまって!!人に向けちゃいけません!!」
首に押しつけられていたナイフなどすっかり忘れ、枻くんが向けてきたサバイバルナイフを指差して勢いよく立った。
いきなり立ち上がった乙葉に驚いた山内は咄嗟にナイフを離したが、内心ドッドッドという心音が鳴り響いていた。
危うく刺してしまいそうだったからだ。
「はぁ?!そんなこと言ってる場合じゃないよ、姐さん!姐さん誘拐されてるんだよ?!コイツら始末しなきゃ!!」
「私は無事だよ!だからしまって!!!こんなの教育上宜しくありません!!」
「姐さん・・・あのね」
はぁ・・・と重いため息を吐いた枻だったが、親父の妻ということもあり、枻は素直にサバイバルナイフを閉まった。
よしよし!と頷いている乙葉と、ムスッとした二十歳の青年を交互に見た山内は、ポカンと口を開けたまま固まっていた。
「え、ナイフ閉まっちゃう感じ?」
いいの、ねぇそれいいの?と山内の隣にいた可愛い顔した体躯の良い男が苦笑して言う。
「体術戦でいきますから、殺してしまっても文句言わないでくださいよ、姐さん!!」
ファイティングポーズというのだろうか。
拳を顔の前に作り、上体を側面に向けていつでも前に踏み切れるようにしていた。
尾崎から教えてもらってきた体術を使うつもりなのか、再び「だめだよ!」と言ってしまう。
まだ二十歳そこそこなのに殺しだのなんだのなんて、絶対いけないことだ。
特に、3人が未成年の頃から見てきたため、余計心配してしまうし、怪我もしてほしくない。
なんならこんな危ないことやって欲しくないとさえ思う。
お姉さん、お母さん心ってやつだろうか。
ついお説教したくなってしまった。
せっかく助けに来てくれているというのに、相手が危害を加えてこないことを知っているから尚更、怪我をさせるようなことをしてほしくなかった。
「姐さん、それは無理だよぉ。体術使わなきゃ俺がヤられちゃうじゃーん」
「この人たち優しいから大丈夫!!」
「「?!!」」
その場にいた鬼神龍組一派は驚いた表情をこちらに向けてきて、何やら色々言いたそうにしている。
「姐さん、優しい悪党なんかいるわけないでしょ」
「いるよー!渚も優しいもん!」
「渚さんが優しい・・・・かは人によると思うんだけど」
「意外と繊細な心の持ち主なんだから。枻くんも心が傷付くようなことしたら私が悲しいの!!」
乙葉節を炸裂させたこの空気感で、みな戦意を失っていたのは言うまでもない。
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